現代神話 第一部

□終わりの始まり
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 玉座、と呼ぶには質素な椅子。そこに座り、一人の人物が呑気に紅茶を飲んでいた。
 少年、いや、青年と呼称するべきだろうか。灰色の髪は肩より少し高い位置まで伸び、少し癖がある。青色の瞳はガラス細工のような輝きを放ち、不思議と見入ってしまう。背は高く、細身。男性的な美しさを全面に押し出した顔立ちは端正で、無駄が無い。
 ここが雪国だからだろう。着ている白のロングコートは襟元にファーが付き、皮の生地には厚みがある。下はコートと同色の革のパンツだ。
 背には斜め掛けに背負われた全長二メートルもの大太刀。腰には漆黒の柄巻が巻かれた打刀が差されている。その二つの得物は、この部屋が持つ静謐な雰囲気を壊す程の剣呑さを孕んでいた。
 そんな不可思議に歪んだ空間に、青年とは別の人物が現れた。
 ゆっくりと部屋の扉を開けた人物は、青年とは違った美しさを持っている。
 癖の無い綺麗な青紫色の髪は、肩甲骨の辺りまで伸びた長髪。背は女性ならば高く、男性ならば平均的、といった所だろうか。非常に美しく整った目鼻立ちと、華奢な体躯は女性的だが、彼の性別は男だ。首には夜色の襟巻。動きやすいように袂の幅を細めに作られた藍色の着物を着用し、黒色の袴は裾が絞られている。
 腰には小太刀の鞘。右手には鞘から抜かれた小太刀が握られている。
 彼の存在感は酷く希薄で、人によっては本当に彼がここに存在しているのかを疑う者もいるだろう。
「結局、キミはその道を選らんだんだね。償いはどうしたの?」
 青年は驚きに満ちた表情を作るが、その口調からは驚嘆の色は見えない。
 彼は玉座に座ったまま、今にも切りかからんとしている長髪の少年を威嚇、否、威圧した。
「私は気付いた。父の生きた、この世界を守る。それが、私の出来る、償い」
 口語とは思えない、装飾の無い単調な言葉。それが、女性のような美しい声で紡がれる。
 長髪の少年の言葉を答えと受け取ったのだろう。青年は嘆息して立ち上がり、背中の大太刀を抜いた。
「まったく、従順な飼い犬に手を噛まれるなんてね。いいよ、殺してあげる」
 次に発した青年の言葉は残酷で冷酷で残虐な物だった。
 それが殺し合いの合図となったのだろう。長髪の少年は小太刀を握る右手に力を込めた。
 

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