堕王子様の王子様

□1日遅れの誕生日
1ページ/1ページ



12月23日。
特に何かがある日でもなく、前日に目一杯誕生日を祝われたベルはミルフィオーレを訪れていた。


「ジルー昨日酒貰ったから呑もー」

「……」

「暗!暗いな!!」


豪奢なジルの部屋は真っ暗で、空気もどんよりと濁っていた。発生源は隅にうずくまる部屋の主。


「ちょっとどーしたん……」

「申し訳ございません。ジル様は今誰ともお会いにならないそうで、お引き取りを」

「あ、想像ついた」


オルゲルトの言葉を完全に無視してずかずかと部屋の隅へ向かう。
そして全く気づかないジルに向かって一言。


「わっ」

「ああああっ!!?」


「驚きすぎ」

「わああああああああ……ベル?」

「俺」


ひとしきり叫んだと思えば、ジルはペタペタとベルの身体を触っていく。


「何、セクハラ?」

「本当にベル?マジで?」

「マジで俺。ジルの弟で昔お前を殺した。何なら腹めくればー?」


躊躇なくベルの服をめくりヘソのあざを確認するジル。


「マジ?幻覚じゃねーよな?」

「だからなんだよ……だったら術士でも連れてきて確認すれば?」

「ベルウウウウ!」

「うおっ」


ガバッとのしかかられ、ベルは床に転がった。
気を許していたのが災いし受身も中途半端で、ゴン、と鈍い音がする。


「いってぇ……」

「わああああベルウウウウ」

「なんなんだよ一体……」


心当たりはあるものの、そこまでメンタル弱かったか?と思わずにはいられない。
自分と同い年の兄、もう三十路を迎えた男が、誕生日を祝って貰えなかっただけで……


「なあ……一応聞くけど、やっぱり誕生……」

「わああああああああ」

「……」


更に激しく泣き出すジルに気づかれないよう、そっと頷くオルゲルト。
ベルはため息を吐いて、ジルの頭を撫でた。


「じゃー俺が一番な。誕生日おめでと、ジル」


多分オルゲルトは言ったと思うけど、執事だしノーカンで。
髪で隠した色違いの瞳にキスをすると、涙でしょっぱかった。


「うう……俺も好きいいい」

「俺もってなんだよ。俺好きって言ってねーし」


好きだけど。
意地悪を言うと、案の定ジルは真っ青になって口を馬鹿みたいに開け放していた。
今にも『ガーン!!』って効果音が聞こえそう。


「うそうそ。俺も好き」


もう一度、今度は唇にキスをすると、今度は微笑みながら泣き出した。




泣きつかれて眠ったジルを一人にできず、結局その日は泊まりとなったベル。

騒がしいと起きてみれば時刻はもう朝。
ジルはまだ幸せそうにとなりで寝ていた。


「もっかい寝っかな……」

「起きてー起きてージルクン!」


カンカンとフライパンをお玉で鳴らしながら、白蘭が飛び込んできた。
眠そうなブルーベルも引き連れ、とても楽しそうだ。


「あれ?ベルクンなんでいるの?まあいいや、今日のパーティー君も参加する?」

「……ナターレ?」

「そーだったんだけど、ジルクンの誕生日すっかり忘れててさー。どうせだし一緒にやっちゃおうって思って!だから一番盛大だよ♪」

「それ……ジルにぜってー言うなよ」

「勿論♪ベルクンも絶対言っちゃダメだよ?さー起きてジルクンー!」

「うるさいにゅー……」

「ブルーベルも起きて起きてー」


カンカンとフライパンを鳴らし続ける白蘭。聞くと、ジャッポーネの古式ゆかしい目覚ましだと聞いてさっそく実践しているそう。
うるさい。耳障りだ。

イライラしていると「んー……」とジルが唸りながらやっと起き上がる。


「……白蘭、さま?」

「んもー遅いよジルクーン。夜ベルクンと何かやってたの?僕はそのへん寛容だから構わないよ♪」

「にゅ?」

「君はまだ知らなくていいかな♪」

「何もやってねーよ」

「にゅ!あいつエロい!」

これ以上同じベッドにいたら疑惑が深まりそうだとベッドから降りたのが災いし、上半身裸で寝ていたベルは『ジルを襲いにきた』という不愉快極まりないレッテルを貼られることになった。


「早く起きて、ジルクンのパーティーするから」

「俺?」

「遅れちゃってごめんよ。さ、早く早く♪」

「白蘭様……!」


目を輝かせ感動するジルに、実態を知っているベルは呆れるばかり。
「にゅー」と歌いながら出ていく二人を見送る。


「白蘭様が俺のために!俺のために!パーティーを!!」

「あーはいはいよかったな」

「嬉しいいいい」


ベッドの上で暴れるジルを横目に上着を着る。


「なんでお前着替えてんの?」

「帰るから。お前泣いてないし、別にパーティーいーし」

「えー出よーぜー」


ナターレと一緒なのに嬉しそうだな、とベルは思う。


「帰ってカエルと任務行く」

「……さぼれない?」

「別に」

「……」


確定任務ではないのでサボるサボらないの前に、まだ行くことすら決まっていない。
アジトに帰って暇つぶしでゲームを起動するように任務を選んで出かけようか、そんなレベルだ。

なのにジルはとても表情を沈ませ、落ち込んでいた。


「ジルの好きな白蘭様がいんだろ」

「ベルもこいし」

「パーティー疲れた」


また沈む。
ミルフィオーレのパーティーなんか行きたくないから、今度ジルをヴァリアーに連れてこよう。いっそヴァリアー嵐二幹部で。
そう考え、ベルは「また来る」と言い、唇にキスをした。




[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ