堕王子様の王子様
□オモチ奮闘記
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イタリア、キャバッローネファミリーの屋敷の庭に数十の米俵が高く積まれていく。
それを楽しげに眺める若きボス、ディーノ。
「コメはこんだけあれば充分だろ?」
「大食い大会でもする気か?」
「元旦はまだだぜボス?」
「ナットーもダイコンもこんなにどうするつもりだ?」
まだトラックで運び込まれる小豆や醤油の山。
そのうち奥から臼と杵も運ばれてきた。
「まさかボス、モチを……!?」
「そのとおりだロマーリオ。今年はジャッポーネ流に、新年は今年以上に素晴らしい縁に恵まれるように今日から準備をする」
「俺たちモチの作り方なんて知らないぜ?」
「安心しろ!俺がきっちり学んできたからよ!」
「おお……!」
さすがボスと歓声があがる。
自慢げにディーノはゴソゴソとポケットから紙切れを取り出し、部下に指示を出した。
「まずはこのコメを蒸す!量が多いから総動員で洗うぞ!」
「洗う……」
「コメを……?」
「洗剤か?」
「!それだ!」
あいにく、ここには米を洗った事のあるものなどひとりもいなかった。
俵からタライに米を開け、洗剤とスポンジでまるで食器を洗うように擦っていくスーツの男たち。
みんな、自分の行動が正しいと信じていた。
泡だらけの米をすすぎ終わり、今度の指示は一晩寝かせる。
「……どこに?」
「どこにって、寝かせると言や……」
「ベッドだろうな!」
ディーノの能天気な声も加わり、各ベッドルームへ運ばれる水に浸かった米のタライ。
この日は米の隣にいてやれとのことになり、餅つきは中断した。
起きた彼ら朝一番でかまどの作成に入った。朝食も忘れるほど、楽しみらしい。かまど製作は仕事上野宿もする身、あっけなく終わった。
「これがセーロ?」
「2段だが……両方にコメか?」
「下に水じゃねーのか?」
試行錯誤しつつ、なんとかセイロに米を収め蒸す。
しばらくするとふわふわと湯気が立ち上り、甘い香りも漂う。
「うまそうだなぁ」
「俺腹減ったぜ……」
「そーいや朝食ってねーな。飯にすっか!」
ぞろぞろと屋敷に戻る。もう昼を回っていたのでワインを開け、パスタを食べ戻ると焦げ臭い匂いがしていた。
「うわ!なんだこれ!」
「セーロだ!セーロが燃えてる!」
「水だ水!」
もくもくと煙を立ちあげるセイロに水をかけ、自体は収集したかに思えたが……
「ギャオオオオオ」
「エンツィオ!?」
「わりぃ落とした!」
「ボスー!ふざけんなー!」
バキバキと踏み潰されていくセイロ。
ディーノは焦りつつ、部下が避難したのを確認し鞭を取り出した。
やっとエンツィオを乾かすことに成功したディーノは、踏まれなかったセイロと自分が壊さなかった臼などをみる。
部下が全員避難してしまったため、屋敷や道具を壊しまくっていたが、すぐに出てきてくれたため惨事にはならずにすんだ。
セイロに直接入れて蒸した米を臼へ移す。長かった。モチってこんなに大変なのか。
ジャッポーネの偉大さを噛み締め杵を握った。
「よし、つくか!」