堕王子様の王子様

□藍色ぎっくり
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シクシク。シクシク。
キャバッローネファミリーボスの部屋から、あまりにも似つかわしくない声がする。
部屋の主であるディーノはベッドに転がり、さめざめと泣いていた。


「ボスー泣きやめよー」

「この歳でぎっくり腰だぜ……まだ二十代なのに……まだ二十代なのに……」

「よくあることだぞー」

「こんなとこ恭弥に見られたら馬鹿にされる……」

「恭弥はしないと思うぜー」


先日の餅つきを張り切りすぎぎっくり腰になったと、溺愛している教え子兼恋人に誰が言えるだろう。
ロマーリオは関心も持たないと意味を含めると、ディーノは笑顔になった。


「恭弥はいい子だもんな!そんな人を馬鹿にするようなことしねーよなー」


疑ってごめん!と手を合わせるディーノが哀れに見えて仕方がない。恋は盲目。


「そうだ、今年は恭弥と年越し出来なかった……」

「ボスそんなにジャッポーネ好きだったか?」

「恭弥とジンジャで年越ししたかった……」


最近のディーノは雲雀に始まり雲雀に終わる。部下がいないと何もできないへなちょこディーノは何処へやら。
ディーノの嫁は雲雀だと部下はもう確信している。


「じゃあボス、俺奴らとモチ仕上げてくるわ」

「……ん?ああ、頼むな!」


もちろん始まった幾度となく聞いた惚気から逃げるための口実だ。
餅の作り方なんて知らないからネットで調べるところから始めよう。




「貴方、ちょっと貴方ってば」

「んん……?」


気が付くと眠りこけていたディーノが目を覚ますと、ベッドの横に雲雀がだるそうに跪いていた。


「きょ、恭弥?」

「何」


ペタペタと存在を確かめるように雲雀の頬を叩く。
雲雀は嫌そうに顔をしかめた。


「なんなの。噛み殺すよ」

「幻覚かと思って」

「ふうん」


新年一発目のトンファーを受けベッドから転がり落ちたディーノは、雲雀の全身を初めてみた。
白い大輪の華が咲いた濃紫の振袖。
煌びやかに輝く帯を結んでいる。


「ななな何だその格好……!いたた」

「着物」

「女物だよな?」

「そんなの着るわけないでしょ。僕は男だよ」


でも女物。
ヒバードと戯れている姿を見ていると少女にしか見えない。
それは雲雀が綺麗だからかはたまた恋のせいか。
腰をさすりながらたずねた。


「お前なんでここに?」

「貴方の部下が来いって」

「ロマ……!」


なんて気のきいた部下だろう。振袖を着せたのも部下たちだ。チョイスが素晴らしい。
感動で目が潤んだが、それも一瞬で雲雀のトンファーに叩きのめされる。


「いてっ」

「ちょっと、僕より部下なの」

「そんなわけないだろ……」


腰が痛い。ベッドになんとかよじ登ろうとしても足が上がらない。


「しょうがないね」


ふわ、と足が上がり体がベッドに寝かされた。
雲雀は袖から取り出した紐でたすき掛けをしディーノを見た。


「今日は僕が貴方の面倒を見てあげるよ」

治ったら手合わせと寿司の言葉は忘れずに。



後日談。
雲雀の日本古式看病でぎっくり腰を治した後、ディーノは特製餅を振舞った。


「旨そうだろー?」

「どこが?」


米はべちゃべちゃ、餡子の小豆は硬いまま、納豆は混ぜすぎて泡立ち、ずんだの枝豆は茹ですぎてどろどろ、大根おろしは液体と化していた。


「……」

「大変だったんだぜー!遠慮せず食えよ!」

「拷問?これモチ米ですらないし……」


既製品以外をこの人から貰うのは絶対やめようと堅く誓った雲雀であった。




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