堕王子様の王子様

□足りない袖
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『足りない裾でフラベル』

先輩以外は興味の無いミーにとって、自分の事など特に関心の無いことなのだ。
だからこんな些細なこと、先輩に言われるまで気付かなかった。

「なんかお前、背ぇ伸びたんじゃね?」
「もう成長期は終わってますよ」
「俺より年下ならまだ伸びんだろってかそんな歳?」
「先輩三十路ですよね」

ナイフが刺さる。
マフィア内では若すぎる先輩も年齢に関しては気にしているらしい。
なら歳に似合わない髪型を落ち着かせろと言ってやりたい。

「どうせ伸びても数ミリでしょ。気付いた先輩キモ」
「刺すぞ。自分で袖見てわかんねーのかよ」
「そーゆーのは行動の前に言うんですよー…」

順調に増えていくナイフを尻目に袖を見ると、数ミリどころか数センチ短くなって、中のシャツが見えていた。
これだと裾も結構短いかな…。

「よく気付きましたねーお見事ー」
「お見事ーじゃねーよ!だらしねーな」

この隊服もそろそろ新しい物と交換か。
過酷な任務に耐え、先輩のナイフに穴だらけにされ、ミンクの炎で焼かれ…。

「…よくここまで生きてこられましたよー」




『霧の幹部として入隊するフランだぁ』
『よろしくでーす』

師匠の元から再び誘拐の様にヴァリアーへ連れてこられ、瞬く間に幹部昇進。
しかし小さなミーに与えられた隊服は大人サイズで、歩くとみっともなく裾を引きずり、書類を取るとカップを倒して周りの書類をダメにしてしまった。

『困ったわねぇ。フランちゃんの隊服がちょっと長いわぁ』
『そんなもん適当に切ればいいだろぉ』
『私が魂込めてデザインさせた隊服を雑に扱わないで!大丈夫、直ぐ大きくなるわよ』

ルッス姐に袖口をたくしあげられた。

『このサイズはベルちゃんが着てたからあったのよねー』
『ベル…先輩?』
『なーにー?』

この頃の先輩もまだ子供だ。
周りが大人しかいない世界で、自分より子供の後輩が出来て先輩ぶりたかったのか、先輩は今よりずっと優しかった。
ミーは上司と言う関係にまだ慣れていなくて、誰かを先輩と呼ぶのも始めてだった。
ルッス姐から逃げて、ソファに寝転ぶ先輩の隣へ立った。

『先輩が好きなんですけど』

直球どストレートで放った球は変化球で投げ返された。

『隊服がお前より小さくなったら考えてやるよ』




「あの頃の先輩は優しかった…」
「は?今も優しいだろ」
「目ん玉抉ろうとしてる時点で優しくないですー」
「キスしようとしてんだよ」
「じゃあナイフ置いて下さい!目の側危…!危な!」

昔の先輩はまだむやみやたらに凶器を振り回したりしなかった。
ジリジリとナイフをカエルに滑らし直撃を避ける。

「先輩は昔の約束覚えてないですよね」
「約束?どの?おめーが死んだら墓建ててやるってやつか」
「建ててくれるんですかーありがとーございますー。だが違うぜ堕王子」
「俺が今すぐ殺すって話?」
「ミーが隊服より大きくなったら付き合ってくれるって話ですー」

先輩に看取られていく最期もいいですね。
これも約束に加えて貰おう。

「何度か隊服のサイズ交換してますけど、有効ですかね?」
「俺達付き合ってなかったの?」

え?

「もう一度仰って貰って…」
「いやいい」
「付き合ってたんですか?」
「いいから!」
「告白してないのに」
「わああああああ!!」


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