焔の明星さま
□渡り鴉の羽ばたき
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「ゆーり…おそいな…」
「そんなに心配ならあんたも付いて行けばよかったでしょ」
ドンのもとを訪れるとすでにフレンがドンと面会しており、『紅の絆傭兵団』を共に討伐する趣旨を伝えヨーデルからの書状を渡すが、『ドンの首を差し出せ』というとんでもない内容のものにすり替わっており、フレンは囚われの身となってしまった。
フレンのこともそうだが、これからどうなるのかと皆が気落ちしているとユーリが財布を落としたと元の道を戻っていってしまった。
「だって…」
ルルは去って行くユーリの手を掴んだ自分の左手を見る。
その時ユーリは優しくルルの手を解き、すぐ戻るといつものようにルルの頭を撫でてくれた。
ルルはそんなユーリの姿に不安を感じながらもそれ以上追い縋ることをせずに今度こそユーリの背を見送った。
「すぐもどるって……」
「リタ、あんまりルルを苛めないでよ。可哀そうだよ」
ルルの顔が泣きそうに歪みリタが狼狽えながらもルルに声をかけようとしたが、その前にラピードがルルを慰めるように寄り添いカロルがそんなルルを見て肩に手を置く。
「な、あ、あたしがいつ苛めたってガキンチョ!!」
「ひっご、ごめんなさい!!」
「まったく!どいつもこいつも」
リタは振り上げた拳を下し腰に手をやると怪我人の治療をして回っているエステルを心配そう見つめた。
「たく、治癒術だって体力使うっていうのにあの子は…」
その時落ち込んでいたルルが顔を上げエステルのほうに歩いていくのを見てリタはどこに行くつもりか尋ねた。
「ここでじっとしててもしょうがねぇから、おれも、じぶんにできることをやるよ。」
「だから何する気?」
「えすてるをてつだってくる」
「あっちょっと!?」
リュオ レィ クロア リュオ ズェ レィ ヴァ ズェ レィ
殺気立ったギルドの街には不釣り合いなぐらいのきれいな旋律その場に奏でられた。
その旋律は広範囲にかけて傷を癒し人々は傷が癒えても暫しの間足を止め癒しの旋律に聴き入った。
「あの唄の一小節ごとにそれぞれ違う力があるみたいね…だとするとあの唄の効力は全部で7つってことか」
初めにシャイコス遺跡での唄は防御系の能力。
今の唄は第三章目の唄、回復系の能力。
一度だけ聴いたあの唄の全章からリタは唄の能力は7つ存在すると推測した。
「ワォン」
「ん?何?ラピード?えっ、あれって!!リ、リタ!!あれ!!」
ラピードに促されるままラピードの示す方に目をやれば・・・・
つまりはあの唄自体が術の詠唱ってことよね。歌詞と旋律がエアルに働きかけて術を発動・・・・・いえ、あの術式じゃエアルに干渉するなんて…ブツブツブツ
リ…リ…タ…ッ…ねっ…聞…て…
だったら、あの術式はエアルじゃ〜〜〜あーー
「もう!!なんなのよガキンチョ!?人が考えをまとめてる時に!!」
「ご、ごめんなさい!!だってあれ!!」
「だから何よ!!・・・・・あいつら」
カロルの示すものを見て、ようやくリタはカロルが必死になって伝えようとしたことを理解した。
そこには今まで追いかけてきた紅の絆傭兵団がいたのだ…ここで逃すわけにはいかない
「カロル、あたしがあいつら追うからあんたは、エステル達にこのこと伝えてユーリと合流したら追ってきなさい」
「ワォン」
「なに?ついて来る気?」
「ワフ」
「まぁ、カロルよりマシか…行くわよ。犬っころ」
そう言って駆け出して行ったリタには、何どう言う意味!?と言うカロルの悲痛な叫びは聞こえていなかった。
「僕のあっかい酷くない?」
「かろる、どうかしたのか?」
項垂れるカロルの頭をルルが心配そうにどっかいたいのか?などの労わりの言葉を掛けながら撫でている。
「うぅうぅー僕にはルルだけだよー」
「うわぁ!?」
カロルがそんなルルに抱きついたことで、ルルはそのまま尻餅をついてしまったがそんなことに構わずカロルは抱きついたまま酷いんだよ!!と愚痴りだしてしまった。
「カロル浮気はいけません!!カロルにはナンがいると前に言っていたじゃないですか!!」
いつの間にか騒ぎを聞きつけたエステルが来ていてルルとカロルを引き離していた。
え、ち、違うよー!!とカロルが弁解するのもお構いなしにルルにはユーリが…とかエステルはまくし立て、カロルが今までの経緯を説明し終えたのは、ユーリが現れる1分前だった。