06/22の日記

20:34
こちらに書けている分を先行公開します
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今週末にアップしたいと書いていた竜のパラレルですが、ちょっと仕事がとんでもなく忙しくなりまして…。
実は今日も疲労で半日ぶっ倒れてましたし、その分明日は家事せねば、ですし、来週末はそれこそ休日出勤です 涙

そんなわけで、とりあえずこちらに、竜のパラレルの書けた分を先行公開しておきます。
なるべく早く続きを書きたいと思ってはいますので、仕上がってから読みたいと思われましたら、このままプラウザバックでお戻りください。

無理しすぎない程度に、明日からまた頑張ります。


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「あれ……一護が熊に戻ってる」

一護の私室に足を踏み入れるなり、水色が呆れ顔で呟く。
その声に振り返った部屋の主は、眉間にこれでもかというほどに皺を寄せて水色を睨みつけたが、黒髪毒舌の幼馴染は全く意に介す様子もなく、軽く肩をすくめただけだった。

「一体、どうしたのさ。さっきまでは立派に領主の跡取り息子してたのに。
しかも、婚儀の終わった後の夜と言えば——ねぇ?」

意味ありげな微笑を浮かべて、一護、啓吾、チャド、雨竜…と、室内に居る面々を、水色はゆっくりと見回していく。
しかし視線の先に捉えた主君、及び友人兼同僚たちの表情は、皆一様に浮かなかないものばかりだった。

「……啓吾?」

いつもなら色めいた話に真っ先に飛びつくはずの相方に、怪訝な表情を向ける水色。
啓吾はちらちらと一護の様子を伺いながら、「それが問題なんだってさ……」と小声で返事を寄越した。

「なんで?」

黒目がちの大きな瞳をくりっとさせながら、心底不思議そうに水色が首を傾げる。
対する一護は、ますます渋面を深めながら、絞り出すように声を発した。

「……最初に言っただろう。
織姫は、城の働き手になるつもりで此処に来たんだぞ。
それがいきなり、俺と婚姻の義に臨まされて、仮祝言だのなんだのって騒ぎになって……加えて、その………しょ……しょ…」
「初夜なんて、気の毒すぎるってこと?」

こっくり……と。
まるで幼い子供のように、一護が首を縦に振る。
その顔は熟れた苺のように真っ赤に染まっており、水色はあまりにも「らしすぎる」反応に、ただ苦笑するしかなかった。

「そうは言っても——こと、ここに至っては、お渡りにならない、なんて選択肢は選べないでしょ。
それこそ、織姫様の立つ瀬が無くなっちゃうもの」
「……わかってるよ」

深く息を吐き出しながら、一護が鎮痛な面持ちで目を閉じる。
その様子に、水色は再び首を傾げた。

「……確かに、急な話ではあるけれども、さ。
そこまで、気に病むことなの?
一護は織姫様のこと、いずれお妃に——と、ずっと真剣に考えていたんでしょ?
なら、織姫様だって多少の覚悟は」
「しているはずないだろう?! 未だ、好きだと伝えてもいないのに」
「———え?」

水色だけでなく、その場にいた家臣一同がぎょっとして一護の顔を注視する。
一護は罰の悪い表情を浮かべながら、視線から逃げるように、じり…と一歩、後退った。

「まぁ…その可能性もあるとは思ってたけど……さ」
「……」
「ねぇ、一護。告白が未だと言うことは…それこそあんなことや、そんなことは」
「してるわけがないだろう!」
「まさか、手を繋いだのも今日が初めて?」
「……山に登るときや、斬月への乗り降りを手伝うときを数に入れちゃ駄目だって言うのなら、そうなるな」

若干、不貞腐れ気味に答えた一護に対し、水色は微かに苛立ちを含んだ声で問いかけた。
四ヶ月も、何をやっていたのか——と。

「何をって——俺に言わせれば、まだたったの四ヶ月だ!
しかも実際に会っていたのは、両手の指の数に届いたかどうかって回数で……。
ましてや織姫にとっては、余命いくばくもない昊殿の看病に心を砕いていた時期だぞ!」
「………」

流石にこれには、水色も決まり悪そうな表情で口をつぐんだ。
雨竜や啓吾もまた、一護に向けていた視線を逸らせ、己の足元の床へと落とす。

壁に背を預けて立っていたチャドが、ゆっくりと水色に近づき、肩にそっと手を置いた、
静まり返った室内に、ごめん——という水色の声が小さくこぼれる。

次にチャドは一護へと歩み寄り、その背を労わりの籠った手つきで軽く叩いた。
怒りに肩をそびやかしていた一護の体から、ふっ…と力が抜ける。

「……そろそろ、行った方がいい」
「チャド…」
「心細い思いを、なさっているかもしれないから」

落ち着いた声音で、穏やかに促すチャドの言葉に。
一護は一瞬の瞑目ののち、苦渋を残したままの面持ちで部屋の扉へと足先を向けた。









「よ、ようこそ……いらせられ、ま…せ……」

上擦って、尻窄みになる声。
薔薇色が消え失せた頬と、微かに震え続ける蒼唇を目にした瞬間、一護はとてつもない罪悪感に襲われた。

——やはり、相当に無理をしているのか…。

式の間も、宴の間も。
時折、縋るような視線を一護に向けることはあったが、基本笑みを絶やさなかった織姫。
だが、しかし。
今、一護の目の前で、まるで産まれたての子鹿のように震えているのは、まだその面立ちに幼さの残る、三つ年下のいたいけな少女でしかなく……。
その姿に情欲ではなく、妹姫たちに抱くのに似た庇護欲こそを掻き立てられた一護は、二人を残して退室しようとする侍女や侍従たちを慌てて呼び止めた。

「皆、聞いてくれ!
織姫は未だ喪中の身であり、本来、婚姻などの慶事を避けるべき時期にある。
それでも、織姫の入城と同時に婚姻の儀を執り行った父上の判断は、正しかったと思っている。
それは、宴の場での一部始終を見聞きしていた皆の目にも明らかだろう。
しかし——。
だからと言って、婚儀にまつわる物事全てを、急いて進める必要も無いはずだ」

ここで一度口を閉じると、一護は視線を織姫へと戻した。
ひた…と静かに見返してくる薄茶の瞳に、小さく微笑んで。
深呼吸を、ひとつ。
そして凛と声を張る。

「皆と、翡翠姫の名において誓おう。
服喪の期間を過ぎ、正式な披露目の日を迎えるまで、我、我が妻の純潔を守らん!」

ざわ…と、その場の空気が大きく揺れた。
一護に向けられる視線は、戸惑いや呆れ、苦笑交じりの肯定など、実に様々だ。
それでも、一護がそう決めたのなら…と、異を唱えようとする者だけはこの場に居ない。
再び織姫へと視線を戻した一護は、その表情から怯えこそ消えたものの、ひどく困惑している様子を察して、ゆっくりと言葉を続けた。

「織姫……くれぐれも誤解しないで欲しいんだが…其方との婚姻に、異議があるわけではない。
ましてや、其方自身に不満があるわけでも。
それは、絶対だ!」
「一護さま…」
「ただ——昊殿を悼む時間すら十分に得られぬうちに、今、この状況に其方を置いていることについては、心の底から申し訳なく思っている。
昊殿に対しても……草葉の陰で、さぞかし驚き、嘆いておられるだろう」

その言葉に、いいえ——と。
織姫は静かに、首を横に振った。

「嘆いてはいないと思います。驚いてはおりましょうが」
「なら、良いのだが」

真摯に訴える織姫の言葉に、苦笑とも自嘲ともつかぬ複雑な笑みを口の端に浮かべて。
では、今宵はゆっくり休め——と、殊更明るい声で告げ、一護は踵を返そうとした。
しかし——。

「お、お待ちくださいませ!」

慌てて引き留めようとする織姫の声に、一護は戸惑いも顕な表情で足を止めた。
正式な披露目あるまでは——そう一護が宣言した瞬間、織姫が密やかに、でも疑いようもなく、安堵の息を吐き出したことに気付いていたからだ。
自分が退室することを、喜びこそすれ。
まるで、真夜中の森に置き去りにされようとしている幼子のような、縋るような視線を向けられようとは思いもしなかったのだである。

「……どうした?」
「あ、あの……お茶を召し上がっていかれませんか? 
初めてお会いした日の夜に差し上げたものと、同じ茶葉です。
既に湯も沸いておりますので、すぐに御用意できます」
「ああ…あのときの……」

確か、疲労回復に効くと言っていたな——と。
当時のことを思い出した一護の口元に、知らず笑みが刻まれる。
初めての閨に怯えながらも、一護の身を気遣って用意してくれていたのかと思うと、素直に嬉しかった。

「では、いただくとしようか」

途端に、織姫の表情が弾けるような笑顔へと変わる。
勧められるままに長椅子に腰掛け、竜貴たちの手を借りながら茶を淹れる織姫を眺めていた一護は、正直なところ、天を仰いで盛大なため息を吐きたい心境に陥っていた。

——誓いを立てた途端に、なんの試練だこれは。

肌が透けるほどではないが、それなりに体の線を拾ってしまう生地で仕立てられた閨着を身につけた新妻の姿は、今の一護にとっては目の毒でしかない。
しかも、時節は晩秋。
暖炉に火を焚べてあるとはいえ、室温は昼間に比べて随分と下がっている。

「千鶴…織姫に何か、羽織るものを……」

ハッとしたように、いくつか瞬きを繰り返して。
あたふたと部屋を飛び出していった千鶴は、じきに毛織物の肩掛けを手に戻ってきた。

「あんたにしちゃ、気が利くじゃない。明日は雹でも降るんじゃないの?」
「うるせぇよ!」

千鶴のくだけた物言いに、一護もまた、単なる幼馴染として応える。
竜貴や鈴、真花やみちるも遠慮なく笑い声をあげ、つられて織姫もくすくす笑いだした。

ムッとして口をへの字にしながらも、一護はチラと視線を横に走らせ、千鶴に対して軽く目礼する。
千鶴の言動が、未だ緊張が解けきらず、ぎこちない織姫を気遣ってのものと理解していたからだ。
千鶴はプイッと横を向いたが、彼女は彼女で、閨着姿の織姫に見惚れていたことを一護に気付かれ、バツの悪さを感じているのだろう。
さりげなく視線を足下に落とし、可笑しさに吹き出したくなる衝動を堪えていると、からからという車輪の回転音と複数の足音が近づいてきた。
カテゴリ: 先行掲載

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