賜りもの

□H2−O
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思えば俺たちと同じように、あいつ等の出会いも突然だった。








*H2ーO









ピンポーン





爽やかな風が開け放った窓から流れる、和やかな土曜日。
久しぶりに家族一緒の朝食をとって、
片手にコーヒー、隣に嫁、膝には息子なんて贅沢な一服をして。
ああ、幸せだなぁなんて、ここしばらくの疲れを癒していたところ。




そんな雰囲気を断ち切る、突然のインターホン。





「誰だ?こんな朝っぱらから・・・」
「一路かな?」
「一路なら鍵もってっから自分で開けるだろ・・・って、待て待て俺が行く」




大きくなったお腹をさすりながら立ち上がろうとする織姫を慌てて止める。
今は3人目が生まれる前の大事なとき。
ただでさえ転びやすいコイツ・・・一路の時も一向の時も至るところですっ転んでは何度心臓を止められそうになったことやら・・・。
それは3人目になろうと変わるはずもなく・・・ほんの少しの不安要素でも取りのぞかねぇと今度こそ俺の心臓が止まりかねない。




「え、ひーくん!?」
「って、こら待て一向!勝手に出るな!」




順調にブラコンに育ちつつある一向は大好きな兄貴の名前を聞くなり玄関に向かって一目散に駆けていく。
織姫も心配だがこいつも心配だ・・・一向は織姫と同じように相手を確認せずに扉を開けるからな。





「ひーくん、おかえり〜!!」
「ああ、こら!だから待てっつの・・・あ?」





扉を開けようとする一向を抱きかかえてインターホンを覗く・・・。





「誰もいねえぞ?」
「とーちゃん、ひーくんじゃないの?」





誰も映らないインターホンに不思議に思って慎重に扉を開けても、やっぱりそこには誰もいない・・・。





「イタズラか?」
「あ!」
「あ?」





一向の声と指差す先につられて視線を下げる・・・。
一路ぐらいの背丈の子ども・・・見覚えのある赤い髪と、黒い着物・・・。





「お前まさか緋え・・・」
「よう、一護!久しぶりだな!」
「・・・は?」
「あー!れんじくんがちっちゃくなっちゃった!!」




いやいやいや、表情とセリフがあってねぇし・・・。
いかにもアテレコって感じだろ・・・、オマケに階段下から感じる馴染みのある霊圧・・・。





「れんじくん、どうしちゃったの〜!!」
「元気そうだな、一向!」
「・・・つーかあいつ等、完全に一向の反応見て楽しんでんだろ」
「とーちゃん、大変だよ!れんじくんがちっちゃくなってるよ!!」
「あ〜そうだな、じゃあ白哉に連絡してなんとかしてもらおうなぁ」
「お、おいこらちょっと待て一護!!」






恋次、お前・・・未だに白哉にビビってんのかよ。






「えぇ〜!!れんじくんが2人になっちゃった!!」
「久しぶりだな、一護、一向!」
「つーかお前等な、一向からかってねぇで普通に訪ねて来いよ」
「いや、織姫と同じくらい一向の反応が面白いから、ついな」
「つい、じゃねぇよ。それ、織姫にはぜってぇやんなよ?驚きすぎてお腹の子になんかあったらどうすんだよ」
「おお、お腹の子は順調か!それは良かった」
「あ、恋次くんにルキアちゃん!」






玄関先での騒ぎを聞きつけたのか、いつの間にか織姫が出迎えに来ていて、あれよあれよと話が進んで気付けば玄関先にいるのは俺と一向だけ・・・。






「とーちゃん?入らないの?」
「・・・おう」







ついさっきまで感じていた穏やかさは一体どこへ行ったんだか・・・。










「で?結局、何しに来たんだ?」
「いや、こっちでちょっと任務があってな。そのついでに一護達の顔も見てくかってな」
「・・・ついでかよ」
「まぁまぁ、一護くん。でも、久しぶりに2人に会えて嬉しいよ」
「織姫は相変わらず寛大だな。いつまでたっても器の小さい一護とは違ってな」
「一向たち、中身までは一護に似なくて良かったな」
「全くだ」
「うるせぇよ!」





こっちはせっかくの休日なんだっつーの!!
いきなり押しかけられりゃ、悪態の一つでも吐きたくなるってもんだろーが!!





「お腹の子は女の子だと聞いたぞ!」
「うん、今のところはね」
「一路と一向も可愛いが、織姫に似た女の子ならさそがし可愛いだろうな!楽しみだ!」
「えへへ、ありがとう」





あ〜あ、嬉しそうな顔しやがって。





「一護、鼻の下のびてんぞ」
「・・・うっせぇな」
「ちっとも成長しねぇなぁ」
「ほっとけ」





お前だって白哉に頭があがらねぇところは昔から少しも変わってねぇじゃねぇかよ!!






「そういや、緋燕もすっかりデカくなったよなぁ」
「そりゃお前のところもだろ」
「まぁ、そうだけどよ」





隣の部屋にいる子どもたちを見る。
すっかり緋燕が気に入って、膝やら背中やらに纏わりついている一向と、
そんな一向にタジタジの緋燕。
前に緋燕に会ったときは、まだ今の一向より小さい頃だったっけか。





「今、いくつになったんだ?」
「あ〜、現世で言えば一路と同じくらいか?」
「ああ。それで、一路に頼みたいことがあるのだが・・」





俺達じゃなくて、一路に?





「あれ?恋次くんがちっさくなってる」
「あ!ひーくん、おかえり!」
「おお!一路、久しぶりだな!」
「わ〜、恋次くんが2人いる」
「・・・脅かしがいがねぇ奴だな」
「その清々しいほどの棒読みっぷり、さすがだな一路!」
「久しぶり、ルキアちゃん」





いつの間に帰ってきていたのか、胴着姿の一路が緋燕の顔を覗き込んでいた。





「ひーくんひーくん!見て!ちっちゃいれんじくん!」
「それで?一向のこの誤解はどうするわけ?」
「・・・一路、頼む」
「1つ貸しだね、父ちゃん」





ああ、もう・・・こいつらのいる前でこんなとこ見せたら何て言われるやら・・・って、もうすでにニヤニヤしてやがるし!!





「痛っ!なんで俺だけなんだよ」
「うるせぇ!」
「一護くん、緋燕くんが見てる前で・・・」
「構わん。そんな姿は兄様で見飽きているからな」
「・・・それはそれでどうなんだよ」
「・・・・・」






ドンマイ、恋次。





「それで、ルキアちゃん。一路に頼みたいことって?」
「おお、そうだったな。単刀直入に言うが、一路の今日1日を私たちにくれんか?」
「へ?」
「何だって?」




一路の1日?
そんなもんもらってどうすんだ?





「まぁ、簡単な話、緋燕と遊んでやってほしいんだよ」
「緋燕と?」
「瀞霊廷には緋燕と歳の近い子どもはおらぬ。私と恋次も仕事があるからな、どうしても家に籠もりっきりにさせてしまうことが多くてな」
「で、どうせ現世に行くなら緋燕も一緒に連れて行って一路に会わせてやったらどうだってことになってな」
「それはわかったけど、なんで一路なんだよ?」





一緒に遊ぶっつったらどっちかと言わなくても一向じゃねぇのか?
それか、わざわざ現世に来なくたって流魂街行けばいくらでも・・・。





「相手が一路がいいだろうって、兄様が仰ってな」
「白哉が?」
「一路なら一護みたいに短気でなければ目の前のことだけしか頭に入らない単細胞ではないから緋燕を任せても安心だろう、とな」
「あの野郎・・・」





あのシスコンくそ兄貴・・・いずれ俺がそっちに行った暁にはただじゃおかねぇからな。





「まぁ、私たちも一路なら安心だからな」
「で、どうだ?頼めるか?」
「いや、それはいいけど・・・」








「ねぇねぇ、お名前は〜?」
「え?えっと、緋燕・・・・」
「ひー・・・?」
「・・・・・」
「すごいね!ひーくんと一緒だね!ひーくんもね、ひーくんなんだよ!!」
「え?え?」
「・・一向、最初の文字しか覚えられなかっただけだろ。えーっと緋燕くん、だっけ?初めまして」
「え、あ、はじめまして・・・」
「オレ、一路だから一向から「ひーくん」って呼ばれてるんだけど、多分オレと緋燕くんの名前の最初が同じだからって意味だと思うんだ。驚かせてごめんね」
「え、いや・・・」
「・・・・・」






「大丈夫なのか?あれ・・・。緋燕、かなり引き気味じゃねぇ?」






うちの息子2人は性格的に人見知りの「ひ」の字も感じられないけど・・・。
その正反対の緋燕はかなり腰が引けてるぞ・・・。
本当に大丈夫なのか、これ・・・。












そうして、突然の休日が始まった。

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