賜りもの

□くまひょう様から頂いた、織姫さんの爪にマニキュアを塗る一護さんのイラスト
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Twitterでフォローさせて頂いているくまひょう様が、先日、織姫さんの爪にマニキュアを塗る一護さんのイラストをアップされていました。
それが本当に、雰囲気のある素敵なイラストで、目にた瞬間、珍しくピピーン!とお話が浮かんだのです。
それで、一護誕そっちのけてSSを書きまして、くまひょう様に押し売りをさせて頂きましたところ、私のサイトへの掲載をお許しくださったばかりか、イラストを併せて掲載させて頂けることになったんですよ!

明夢、やりました!
エビで鯛を釣りましたですよーっ!!!
( *´艸`)

……というわけで、素敵イラストと私めの駄文、お楽しみ頂ければ幸いです。







【爪を彩る彼色の光】


※ 新婚さん設定







職場の先輩に、マニキュアを貰った。
綺麗な色に惹かれて購入したものの、いざ塗ってみたら自分には悲しいくらい似合わなかったのだ…と言う。

「姫先生になら、きっと似合うと思うの。色も色だし……ね?」

意味ありげな含み笑いと共に差し出された小瓶に満たされていたのは、鮮やかなオレンジ色の液体で。
私は真っ赤になりながらも、心からお礼を言って受け取ったのだった。

……そして、入浴後の今現在。
居間として使っている部屋の蛍光灯の下で、小さな唸り声を上げる私。
左手は割とムラなく綺麗に塗れたものの、左手を使わなければならない右手側が、どうにも上手くいかないのだ。

溜息を吐きつつ、除光液を取り出して。
コットンを使って、塗ったばかりのマニュキアを拭き取っていく。

さて、もう一度リベンジよ……と。
再び小瓶に手を伸ばしたところで、一護君がお風呂から戻ってきた。

「へぇ…お前がそういうの使うって、珍しくね?」
「そうだね、自分でわざわざ買ったりはしないかなぁ」
「んじゃなんで、今、それ持ってんの」
「職場の先輩に頂いたの。それで、折角だから塗ってみようと思って。明日、お休みだし」
「ふぅん…」
「でも、私右利きだから…どうしても右手側が上手く塗れなくて……」

そう言いながら、軽く肩を竦めつつ苦笑してみせると。
一護君は私の隣へと腰を下ろしながら、「ちょっと、貸してみろ」とその大きな掌を差し出した。

「……え、と?」
「だから、その瓶を寄越せ…って、言ってんの! 俺が塗ってやるから」
「ヘ?!」

思いがけない申し出に驚いて、ただただ瞬きを繰り返す。
すると一護君は、ちょっと拗ねたような表情になって。

「……嫌なら、やめとくけど」

ぼそり…と小声で呟くと同時に、ふい…とそっぽを向いてしまったものだから、私は大いに焦ってしまった。
慌てて、首を横に振る。
それこそ、ぶんぶんっ…と、音がしそうな勢いで。

「いいいいいい嫌なんかじゃないですっ! 是非是非、お願いします!!」

半ば腕に縋りつくようにして、そうお願いすれば。
ちら…と横目に私を見て小さく息を吐き出した後、一護君はもう一度私の方に向き直ってくれた。

「あの……怒った?」
「いや」
「……じゃ、呆れちゃった?」
「何で?」
「……溜息、吐いたから」
「ああ…」

くしゃり…と。
それまでの仏頂面が、柔らかな苦笑へと変わる。

「単に、ほっ…としただけ」

そして。
再び差し出される、掌。
私を見つめる瞳が、一層優しく細まっていく。


……まるで、ダンスに誘われてるみたい。


指が触れる瞬間、ふ…とそんなことを思った。












***********





「確か、髪の毛一本分くらい塗り残すんだっけか」
「……良く知ってるねぇ、一護君」
「昔お袋が、そんなこと言ってたな…って」
「お義母様が?」
「ああ。普段は化粧にしろアクセサリーにせよ、必要以上に華美に装うことはしねぇ人だったけど…。
亡くなる日の二週間くらい前だったかな。
高校時代からずっと付き合いの続いてる、大切な友人の結婚式に呼ばれたから…って。
凄ぇ嬉しそうに、さ…」
「そう……」

そんな会話をしている間にも、一護君の手で染められていく、私の爪。
まるで夕日を搾って生み出されたような綺麗な綺麗なオレンジ色が、蛍光灯の光をきらり…と弾く。

視線を上げれば、至近距離に一護君の顔。
普段あまり目にすることのない角度から眺めるその表情は、湯上がりで素直に額へと流れ落ちる前髪とも相まって、なんだかちょっぴり知らない人のよう。
そんなふうに思ってしまったせいなのか、手を掴まれていることを妙に意識してしまって。
初めて手を繋いだ日のように、早まっていく鼓動。
次第に頬が、熱くなっていく。
そわそわと落ち着きをなくしていく心を持て余した私は、ほんの僅かだけれどもその場で身じろぎをしてしまった。

「うぉあっ?!」
「あ! ご、ごめんなさい!!」
「…いや、何とかはみ出ずに済んだ」

ふぅ…と。
気を取り直すように、大きく深呼吸をして。
私の手を軽く持ち直すと、再び黙々とマニキュアを塗っていく一護君。

「……どうかしたのか?」
「うん、ちょっと……色々と意識しちゃって…」
「意識?」
「え、と…その……一護君の手とか、体温とか…」
「…今更?」

可笑しそうに、そう言って。
ちろり…と上目遣いに私を見る一護君。
その口の端がにぃ…と意地悪く吊り上がり、茶水晶の瞳に愉しげな光が閃く。

「手を握る以上のことだって、散々してるのに」
「…っ、?!」

思わず、息を詰まらせて。
目を白黒させて絶句している私を見て、堪えかねたように一護君が笑い出した。

「い、一護く……っ、んん?!」

からかわないで、と。
そう抗議しようとした私を阻むかのように、握っていた手を引いて私の身体を軽く前のめりにさせて。
驚いて大きく見開いた目を閉じる間すらなく、唇に触れて…離れていった、彼の熱。

「…………卑怯者」

恨めしげに、つぶやいてみたけれど。
一護君は相変わらず悪戯っ子のような笑みを浮かべたまま、軽く肩を竦めただけだった。

「あとは小指だけだ。もうちょっとだけ、じっとしてろ」
「…うん」

今回も上手いこと、誤魔化されてしまったなぁ…と。
これでもう何度目の黒星かしら…などと、ぼんやりと考える。


……悔しいなぁ。


ちいさな溜息を、ひとつ吐いて。
だけど……。

「よし、終わり!」

瓶の蓋を締めながら、一護君が破顔した。
ありがとう…と伝えれば、その笑顔がはにかむような、少し照れくさそうなものに変わる。

我ながら、良くできた…と。
私の指先を眺めながら、手の甲で鼻の頭を擦る……その姿はまるで、工作を完成させた幼い子供のようで。
かわいいなぁ…と、口に出して言ったら怒られそうなことを考えた、その私の胸の内には、彼への愛しさが溢れんばかりに沸き上がっていた。

わずか数分の、出来事だったけれど。
なんて贅沢で幸せな時間だったことだろう……。
ほんの、数年前。
空座一高の制服を着ていた頃には、想像すら出来なかったのに。

「……ありがとう、一護くん」

万感の想いをその一言に込めて、彼に告げれば。
きょとん…として私を見返す、薄茶の瞳。

「さっき、聞いたぜ?」
「うん……その、マニキュアのことじゃなくて、ね?」
「……?」

俯いて、もじもじと。
歯切れ悪く言葉を紡ぐ私を訝しんだ一護君が、私の瞳をのぞきこもうとして軽く身を屈めた。


………あ。
これって、チャンスかも…!


咄嗟につま先立ち、掠めるような口づけをひとつ。
ぽかん…と、それこそ豆鉄砲をくらった鳩のような表情で固まっている一護君の姿に、してやったり…と内心で万歳三唱しながら、「大好きだよ」と笑顔で告白。


その、直後だった。


私に向かって伸ばされた彼の手が、がしっ…と私の腰を掴んだかと思うと、「あ」と驚きの声を上げるよりも早く、米俵よろしく彼の肩に担ぎ上げられてしまった。
悲鳴を上げつつわたわたと暴れる私の耳に、マニキュアが剥げても知らねぇぞ…と、憎らしいくらい冷静な声が届く。

……そして。
一護くんが足を踏み出した方角で彼の意図を察した私、は。
一瞬青冷めたのち、火を噴くような勢いで全身を真っ赤に染めてしまったのだった……。















「い、いいいいいいいい一護くんっ、ちょ…ちょっと待ってぇぇぇえっ?!」
「うるさい、お前が悪い!」
 

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