賜りもの

□*ゆうきのうた
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1年。365日。
8760時間。
この長い長い時間の中で、どれだけ黒崎くんと一緒にいられたんだろう?


わがままは、言いたくないの。


でも、黒崎くん、





会いたいよ。





*ゆうきのうた





黒崎くんとお付き合いを出来るようになって、もうすぐ1年。
もうすぐっていうか、明日というか。
早かったような、短かったような。
でもとっても幸せな1年だった。


「じゃあねー、織姫!一護、よろしく!!」


土曜日の半日授業が終わって、みんなで遊びに行った帰り道。
黒崎くんが送ってくれることになった。
きっと、たつきちゃんが気を遣ってくれたんだろうな。
黒崎くんとのお付き合いは、みんなには内緒。
知ってるのはたつきちゃんと、黒崎くんの親友の茶渡くんだけ。
黒崎くんが告白をしてくれた時に「みんなには内緒にしていいか」って。
それでも「大事にするから」って言ってくれたから、私はそれだけでとっても幸せだったんだ。
今でも、その時のことを思い出すと顔がにやけちゃう。


「井上?」
「へ!!?」
「何笑ってんだ?」


ああああ!!黒崎くんが隣にいることすっかり忘れてたぁ!!
呼ばれて顔をあげると、不思議そうにこっちを見てる黒崎くん。
その後ろには、いつの間に辿り着いていたのか私のアパート。
井上織姫一生の不覚です。
せっかくの黒崎くんとの貴重な時間を無駄にしました。


「あ、そういえば」
「どうしたの?」
「俺、明日啓吾達と出掛けるんだよ」
「え?」
「だから、ちょっと遅くなっちまうけどさ、いつも通り電話するから」
「うん」


黒崎くんが浅野くん達と出掛けるなんて久しぶりだなぁ。
「めんどくせぇけど」なんて言ってるけど、何だか楽しそう。
こんな顔が隣で見られる私は幸せ者です。


「待ってるね」
「おう」


でも、そっかぁ。
やっぱり黒崎くんは覚えてないかぁ。







「うわぁ、いい天気ですなぁ」


夜中に雨が降っていたからちょっと心配だったけど、起きてみたらいい天気。
せっかくの黒崎くんのお出掛け、晴れて良かった。


「ありがとう、お疲れ様です」


窓に引っ掛けたてるてる坊主をちょんとつっつく。
くるくる回ってこっちを見た顔はにっこり可愛い笑顔。
うん、我ながら上出来ですな。


「こんないい天気に外に出ないなんて、もったいないよね!」


そうと決まれば準備開始!
素早く身支度を整えて家を出た。行き先なんか考えずにふらふらと歩く。
歩きながら考えてしまうのはやっぱり黒崎くんのこと。


「楽しんでるかなぁ、黒崎くん」


最初は近くにいられるだけで嬉しくて幸せで。
まさか隣にいられるようになるなんて思ってなくて。
1年経った今でもまだ信じられないくらい。
みんなに内緒のお付き合いは、ちょっと寂しい時もあるけど、今だってとってもとっても幸せ。

これ以上望んだら罰が当たっちゃうって思うのに、
欲を言うならね、もっともっと近付きたいな、なんて。
欲張りだなぁ、自分。


「あ〜ダメダメ!暗いよ私っ」


よし、笑おう!!
夜中からの雨で出来た水溜まりを覗いてにーっと笑ってみる。
見えるのは水色の空と自分の顔。水で歪んでてかなり情けない。
何だか笑われてるみたいで、側にあった小石をわざと投げて、走りだした。





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