捧げもの

□little rest
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「……何、笑ってるの?」

僅かに頬をふくらませて、彼女が俺を見上げる。

「別に?」
「……嘘。どーせ、食いしん坊とか思ってたんでしょ」
「ああ、一応自覚はあるんだ?」
「………う」

口を尖らせ気味に俯いた彼女の横顔に、ぷっと軽く吹き出して。

「ほら…少し、休めよ」
彼女の前に、静かにマグカップを置く。

「ありがとう……」
俺を見上げて、ふわっと微笑んで。
それから、両手で包み込むようにカップを取り上げると
「わーい、甘酒だぁ!」
まるで幼い子供のように、それはそれは無邪気に嬉しそうな声を上げる。

こくん…と、一口飲んで。

美味しい……と呟きながら、幸せそうな笑顔でほぅっとため息を吐く。
そんな一連の仕草に、俺は小さく笑いながら。
「……い…しょっと」
彼女のすぐ隣に、腰を降ろした。

俺もまた、一口カップの中身を含んで。
そして軽く、眉根を寄せる。

「………ちっと、甘すぎたか?」
「黒崎君には、そうかもね。私はこのくらい濃い方が好きだけど……」

ふふっ……と小さく笑う彼女を横目で見つつ、もう一口飲む。


ーー直後。


とすっ……と、肩に軽い衝撃。
彼女がその頭を、俺の肩口に凭れかけてきたのだった。

「えへへ、充ー電!」

少し照れたような口調でそう言って、彼女は目を閉じる。
俺はマグカップを反対の手に持ち変えると、空いた手で彼女の胡桃色の髪をゆっくりと梳いた。

「いい気持ち……」

うっとりと、彼女が呟く。

「こうしてもらうの、好き」
「そうか?」
「うん…好き………」
「そっか……」

彼女の頭に、頬を当てて。
鼻孔をくすぐる香りに微かな目眩を覚えながら、手は尚も彼女の髪を梳き続ける。

「俺も……」
「え?」
「こうしてんの、結構好きだな。お前の髪、すっげー手触り良いから……なんか癖になる感じ」
「あはは…なんか照れますなぁ……」

くすぐったそうに、彼女が笑う。

「あのね……黒崎君………」
「ん?」
「……………大好き、だよ?」
「………」

髪を梳く手が、止まる。
そのまま彼女の肩に手を回し、少し体勢を変えて。
それからそっと、唇を重ねた。


軽くのつもりが、つい深くしかけて……彼女からストップをくらう。


「だーめ」
そっと俺の唇を押し返す、細い指。

「今晩中に、終わらなくなっちゃうよ」
「……無理せずに明日に回せば? 明日も日曜で休みなんだし」
「嫌です! 折角黒崎君が来てくれたんだもの、せめて明日は二人で心おきなくいちゃいゃしたいのですっ」
「いちゃいちゃ……って……」
「…………恥ずかしいので、オウム返しはしないでください」

一瞬、ぷうっと小さく頬を膨らませて。
それから直ぐににっこりと笑うと、彼女はテーブルへと向き直る。

「休憩終わり! さて、もうひと働きいたしますぞ!」

そう言いながら、テーブルの上や床に広げた沢山の色画用紙の中から、幾枚かを選び始めた……。








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