賜りもの

□H2−O
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「ひーくんひーくん!次、これね!!」
「え、う、うん・・・」
「仲良いね、一向と緋燕くん」
「・・・・・」





ああ、確かに仲が良い・・・緋燕もだいぶ一向にも慣れてきたみたいだしな・・・。
けどな・・・。





「お前はここで何してんだよ」
「何って・・・強いて言うなら見守りかな?」





今、隣の部屋で遊んでいるのは一向と緋燕の2人だけ。
何故か頼みの対象だった一路は俺の隣でお茶をすすっている・・・って、お前はじいさんか。





「だってオレがいると、緋燕くんなんか緊張するみたいだし」
「まぁ、そうだけどよ・・・」
「オレがいて緊張させちゃうより、一向と楽しく遊んでくれた方がオレも嬉しいし」
「悪ぃな、一路。お前がどうこうってことじゃねぇんだ」
「緋燕は、自分の同世代の子どもと関わるのは初めてだからな。どう接して良いかがわからんのだろう」
「同世代って、一向も対して変わんねえじゃねぇのか?」
「一向はほら、草鹿副隊長がいっからなぁ」
「本当、気にしてないから大丈夫だよ」
「一路・・・」





気にしてないとは言いつつも、あそこまで怯えられたら気にならないってのは嘘だよなぁ。
俺とは違って今まで人当たりの良かったこいつは、こんなこと初めてだろうし・・・。
ああ、こういう時の気の利いた言葉1つも出てこない自分が情けないったらない・・・。






「まずは一緒にいることが、大切なんじゃないかな?」
「・・母ちゃん」
「初めて会ったんだもん、それに慣れない現世だし、緊張するに決まってるよ。お話したり、一緒に遊んだりするのも勿論大切なことたけど、もっと大切なこともあると思うよ?」
「もっと?」
「それに、緋燕くんが緊張しちゃうなら、安心できるまで一路が隣にいてあげればいいんだよ!」
「・・・・・」
「ね!」
「うん、そうかも」
「よーし、頑張れ一路!」






重たかった腰を上げて一向と緋燕のところへ向かう一路。
なんて言うか、こう・・・。






「母は強しってやつだな」
「流石は織姫だな」






確かに、3人目ができてから、ますます逞しくなった気がするよな・・・。







「ひーくん、見て!ひーくんね、ひーくんが解けなかった問題あっという間に終わっちゃったよ!!」
「・・・ごめん、一向。さすがにオレでも何言ってるかわかんない」
「えっとね、これ!」
「・・・・・」
「ひーくんがずっと考えてたやつだよね!」
「・・・すごいね、緋燕くん」
「えっ、いや、そんなことはっ・・・」
「じゃあ、こっちは?」
「え?」






・・・あれ?
なんだよ、なんだかんだ上手くいきそうな雰囲気じゃねぇか?
緋燕が一向に言われて解いていたのは、最近一路がハマっているナンプレ。
暇さえあれば鉛筆片手に数字とにらめっこしては唸りながら考えている。






「どれ、いっちょ俺も知恵を貸してやるか」
「やめとけよ恋次。俺も前に同じことをやろうとしたら一路に怒られたからな」
「お前・・・だんだん父親の威厳なくなってねぇか?」
「たわけ、恋次。そんなもの一護には最初からないではないか」
「それもそうか」
「てめぇらな・・・」
「でも、2人ともなんだか楽しそう」






織姫の声に視線を向けると、ほんの数分前には想像もつかなかった光景。
オレンジ色と赤色の頭がぴったりと寄り添っている。






「これは、こうじゃないかな?」
「でも、こっちの可能性もあるよね」
「うーん・・・」
「あ!こうじゃない!?」
「あーそっか!そうだそうだ!!」






あーでもないこーでもないと、弾んだ声が飛び交う。
そばにいる一向のことはそっちのけ。
あんまりほったらかしにされるもんだから一向は俺達のところにやってきて、2人の背中を眺めている。
さっきの一路と立場が逆転。






「やはり一路に任せて正解だったようだな」
「ああ、あんなに夢中になってる緋燕を見るのは久しぶりだ」






そう言って微笑む2人の目は、心なしか潤んでるような気がしないでもない。
ありがとうと、2人は頭を下げるけど、お礼を言いたいのはこっちの方だ。
あんな風に無邪気に笑う一路を、どれくらいぶりに見ただろう?
父親が頼りないせいか、弟がいるせいか、もともとの性格のせいなのか、妙に大人びてしまったコイツ。
どんな風でも一路は一路だから否定なんてしないけど、一向とはあまりにも正反対だからどうしても気になってしまう。





たつき相手だと違うらしいし、
俺自身も子どもの頃、どこかヒゲに頼るのは抵抗があったみたいに俺や織姫の前ではっていうコイツなりのプライドもあるのかもしれない。





けど、だからこそ、なんて言うか上手く言えないけど、
父親が頼りないからとか、兄貴だからとか、そんなことは全部捨てて、一路がありのままでいられるような場所が今目の前にあると思ったら、なんだかすげぇ嬉しいんだ。






「ひょっとして、一路と緋燕くんって、似たもの同士なのかな?」
「いや、どう見ても正反対だろ」
「でも、正反対なのは背中合わせだからで、お互い振り向けば案外近くにいるのかも!」






なるほどな・・・近すぎて気付かないってやつか。
確かに緋燕は一路にとって、俺と織姫でもなければ、一向のようでも、たつきでもない。
今まで会ったことのない、一番近い存在なのかもしれないな。






「あ!解けたよ緋燕くん!」
「やったね!一路くん、じゃあ次いこうよ!」






せっかくの休暇に突然の訪問は、ちょっとばかり痛かったけど、こんな光景が見られるなら安いもんだな。










「すっかり長居してしまってすまなかったな」
「もう帰っちゃうの?」
「うむ。夕飯まで馳走になってしまったしな、それに仕事も残っておるしな」
「そっか〜。じゃあ、今度来たときははもっとゆっくりしていってね!」
「そうだな、次は一護がいないときに何か美味しいものでも食べに行こう」
「なんで俺がいないときだよ!」
「私に織姫をとられてヤキモチを焼いて終始指をくわえて睨みつける貴様が目障りだからに決まっておろう」
「指なんかくわえてねぇよ!」
「ほう、ヤキモチを焼いていたことは否定せんのだな」
「ぐっ・・!」
「まだまだだな一護。このじゅっくじゅくの未熟者」
「てめぇな・・・」
「まぁまぁ、一護くん」







「・・父ちゃんって、一体誰になら口で勝てるんだろ?」
「一路」
「どうしたの?恋次くん」
「今日はありがとな」
「こっちこそ。オレも楽しかったよ」
「ほら、緋燕。お前も」
「・・・・・・」
「緋燕くん、ありがとう。はい、握手」
「一路、くん・・・」
「ん?」
「僕と、親友になってください!!」
「へ?」







ルキアと言い争うなか聞こえた声に驚いて振り向くと、
髪と同じくらい顔を真っ赤にした緋燕と、驚いて目を丸くしている一路。
つーか緋燕にしちゃかなり大きな第一歩だと思うけど、またいきなりデッカくでたなこりゃ。







「・・・・・」
「緋燕くん」
「・・・・・・」
「オレの親友は、たつき師匠なんだ」
「・・・そ、そっか・・」
「でも」
「・・・・・」
「緋燕くんとはなんだかすごく近いから、『心友』になれるかも」
「え・・・」
「だからこれからもよろしくね」
「・・・うん!」







親友はたつき、心友は緋燕。
なるほど、コイツらしい考えだな。








「妙にギザったらしいところは一護にそっくりだな」
「馬鹿者、恋次。ただの照れ隠しのかっこつけの一護と一路を一緒にするな」
「それもそうか」
「てめぇら、マジで覚えてろよ?」
「あはは!」
「お前も笑ってんな織姫っ」










思い返せば俺達の出会いは突然だった。
でも、その突然から始まって、
コイツらと一緒の時間を過ごし、時に笑い、怒り、戦い、たくさんの言葉を交わした。
それは人間の約80年の時間の中ではほんの少しの、死神のコイツらにとってはほんの一瞬の出来事。
でも、そんなほんの一瞬を生み出してくれたのは、突然でかけがえのない出会いだと思えるから。











「またね、緋燕くん」
「うん。バイバイ、一路くん!」












どうか目の前の突然の出会いも、いつかかけがえのないものになりますように。














*2013.05.25

背中合わせの心友。
さぁ、振り返ろうか。

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