賜りもの
□Part of me 〜光のすあし・後日譚〜
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時々、思うんだ。
俺とオマエは生まれるずっと前にも、大切な何かを分け合って生きていたんじゃないか…って…。
《Part of me 〜一護Side〜》
「いいお天気だね、一護くん!」
俺の少し前を、織姫が白のワンピースをふわりと靡かせ足取りも軽やかに歩く。
「式の当日も、こんなお天気だといいんだけどなぁ。」
そう言いながら、織姫は緑の芝生へと足を踏み入れた。
「…そうだな。」
俺も頷いて、織姫に続く。
足元に柔らかな芝生の感覚。風が運ぶ草と太陽の匂いが心地いい。
ここは、もうすぐ織姫と俺が式を挙げる小さな結婚式場の一角。
最後の打ち合わせに来た帰り、織姫はもう一度式場になるガーデンを見たいと言い出した。
広い青々とした芝生のほとりに、小さな泉を模した噴水。
ガーデンの隅には大樹がそびえていて、涼やかな木陰を作っている。
更に、あちらこちらに飾られた花鉢が色鮮やかな花を咲かせていて。
幾つかの式場を二人で見て回ったが、このガーデンが彼女はとても気に入ったらしく、即決でこの会場に決めた。
…なんとなく、だけど。
俺も、「ここがいい」と感じた。
俺と織姫の新しいスタートは、こんな庭が相応しい…そう思えた。
…けれど。
もっとずっと綺麗な庭を、俺は知っている気がして。
そしてその庭で俺を待つのは、やっぱり…。
視線の先には、ガーデンの花に慈しむ様な眼差しを向ける織姫。
時折こちらを見ては、ふわりとした笑顔を俺にくれる。
…そう、こんな情景を、確かに俺は知っている気がするんだ…。
…有りがちな例えで言うなら。
俺は織姫に出逢った時、「運命」を感じた。
他人から色眼鏡で見られる髪の色。
後悔してもしきれない形で永遠の別れを告げた肉親。
別々に生きてきた筈の俺とオマエが心に刻んだ傷は、あまりにも似ていて。
それは俺達に責任がある訳じゃなくて、例えば前世て犯した罪に対し下された罰なのだ…と言ったのは誰だったか。
そんな生まれるずっと前のことなんか知らねぇ…そのときはそう言った気がするけれど。
…もしかしたら俺とオマエは、生まれるずっと前にも大切な何かを分け合って生きていたんじゃないか…って。
喜びも悲しみも、罪や痛みさえ二人で同じものを分かち合う、そんな「運命」を一緒に背負って生まれて来たんじゃないか…って。
そう思ったんだ…。
記憶と呼べるかどうかすら解らない曖昧なそれに思いを馳せていた俺がふと視線を上げると、気が付けば織姫が視界から姿を消していた。
「…織姫?」
俺がガーデンをぐるりと見渡しても、彼女の姿は見当たらない。
…すると。
「一護くーん!ここだよー!」
頭上から降ってくる、柔らかな声。
ガーデンにそびえる大樹を見上げれば、木に登った織姫が無邪気に手を振っている。
「バカッ…!オマエ何やってんだよ!」
「あのね、このお庭をここから見たらどんな眺めかなって。とっても綺麗だよ!」
慌てて木の根元に駆け寄る。
ワンピースの裾をひらひらとさせながら木の幹の谷間に腰掛ける織姫を見上げ、「危ないだろう」と叱ろうとした俺は、その言葉を思わず飲み込んだ。
織姫の後ろにキラキラと広がる木漏れ日が、まるで天使の羽根の様で。
何故だか、泣きたくなるほど彼女が愛しくてたまらなくなった。
…俺は、知っている。
こんな、彼女を。
そして、どうすればいいかを。
…俺は、両手を彼女に向けて真っ直ぐに伸ばす。
「…下りて来いよ、織姫。受け止めるから。」
俺のその言葉に、織姫は驚いた様に一瞬きょとんとしたが、すぐに綺麗な笑顔を見せた。
「…うん。じゃあ、行くね。」
ふわり…と。
ワンピースと胡桃色の髪を靡かせて。
背中に目映い光の羽根を広げて。
織姫は俺の腕の中へと舞い下りてきた。
「…ありがとう、一護くん。」
確かに抱き止めた、温もり。
逃さぬ様に腕に力を込めれば、織姫もまた俺の肩に腕を回す。
「オマエを受け止めるぐらい、どうってことねぇよ。」
「…本当に?」
そう呟いて顔を上げた織姫の瞳が、僅かに揺れていることに気付く。
「…ああ、いつでも、どれだけでも受け止めてやるよ…オマエの全部。だから…。」
「だから?」
いつもなら照れ臭くて絶対に言えない言葉だけれど。
この場所で、誓うよ。
神父様や式の参列者に誓うより先に、まずはオマエだけに。
「…ずっと一緒にいような。それで…一緒に幸せになろう。」
織姫の見開かれた大きな瞳から、キラキラと溢れる銀色の雫。
「…うん…。」
「…ずっと、一緒だ。」「…うん…。」
これは、確信。
俺とオマエはこれからもずっと、全てのものを分け合って生きていくんだ…って…。
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