賜りもの

□未来予想図
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俺は手芸部の教室まで続く廊下を歩きながら、頭の中で井上にかける言葉を反芻していた。

チャドのバンド演奏、一緒に見ないか?…だったら、お互いの友人なんだし自然だよな、うん。

ぐちゃぐちゃ細かいことは言わず、シンプルに誘おう…そう決めて、手芸部の教室を覗こうとした、そのとき。

「きゃっ!」
「うわっ!」

教室から飛び出してきた女子生徒達とぶつかりそうになった俺は、思わず声を上げた。

「な、何だ?!」
「あ、ヒメちゃんのクラスの人だ!」

俺にぶつかりそうになった女子生徒は、謝ることもせず俺を指差してそう言った。

「ねぇ、ヒメちゃん知らない?!せっかくウェディングドレス着たのに、ドレスごといなくなっちゃったの!」
「…は?!」

状況がよく飲み込めずに困惑している俺に、他の部員が横から口々に言葉を差し挟む。

「片付けの時に、ヒメちゃんにウェディングドレスを着せたらすっごく綺麗だったから、写真に撮ろうと思ってカメラを教室に取りに行ったの。でも戻ってきたらいなくなってて…!」
「そうなの!教室とか、トイレとか探してみたんだけど、どこにもいなくて…。」
「絶対に写真に収めなきゃ!貴重な部費の財源が…!」
そう言う女子生徒の眼鏡の奥がキラリと鋭く光る。
何だか、商売人の目付きしてるぞこのヒト…。

詳しい事情は分からないが、とにかく井上がいなくなったっていうことだけは俺にも理解できた。
「じゃあ、もしヒメちゃんに会ったら、私達が探してたって伝えて下さいね!」
そう言うと、俺の返事も聞かずにその一団はもの凄い勢いで廊下を走っていった。

…嵐の後、1人立ち尽くす俺。
静けさの中、頭をガリガリっとかきむしって井上の行きそうな場所を思い浮かべる。

…そうして。
俺の頭に、一つの場所がピンと閃いた。

なんと言うか、ただの直感。
けれど、絶対に井上はそこにいるという確信もあって。

「…うし、行くか!」

なんとなく、手芸部の一団より先に井上を見つけたくて、俺は廊下を走り出した。




俺が思い描いた場所は、屋上。

なぜウェディングドレス姿でわざわざ屋上まで行ったのかは分からないけれど、井上はきっとそこにいる。

屋上までの階段をかけ上がりながら、俺は頭の中で井上にかける言葉を考え直していた。

何で屋上にドレス姿で来たのか、とか。
手芸部の奴等が探してたぞ、とか。
…いちばん伝えたいことは、チャドのバンド演奏を一緒に聴こうってことだから、それを言うタイミングだけは外しちゃまずいよな、とか。

あれこれぐちゃぐちゃと考えて、結局言いたいことは何もまとまらず。
気が付けば屋上の扉が俺の目の前にあった。

ドアのノブにゆっくりと手をかけ、上がった息を落ち着かせるべく大きく深呼吸をする。

「…井上、ここにいてくれ。」

俺は、祈るような気持ちで手に力を入れてドアを開けた…。




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