01/09の日記

11:11
小ネタ。織姫さんが、一護さんを思い出す話
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ファンクラブのQ&Aで、織姫さんは昊さんを黒崎医院に運び込んだことや、そこで対応に出たのが一護さんであったことを憶えておらず、憶えていたのはむしろ一護さんの方で、故に先にシンパシーを感じていたのは一護さんの方である…という事実が昨年明かされました。
その時から、何かの拍子に織姫さんが思い出す話を書いてみたいと思っていて、ようやく形になった小ネタを以下に貼っておきます。

松の内も過ぎた時分に何ですが、新年のご挨拶も兼ねまして……。
相変わらずのへっぽこ管理人ですが、今年もどうぞよろしくお願いします。


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差し出された、手を取って。
優しく握り返された——その、瞬間。
まるで雷に打たれたような衝撃が、全身を貫いた。





あぁ……あなた、だったの。





あの日…お兄ちゃんの、死んだ日。
私の記憶は、酷く曖昧で。
はっきりと覚えていることと言えば、お兄ちゃんの死に顔くらいのもので。
自分の足で運び込んだはずなのに、お兄ちゃんを診てくれた病院の名前も場所も、何ひとつ思い出せずにいた。

私の隣に、ただ黙って寄り添って。
そっと手を握っていてくれたはずの、誰かのことも——。






——また、逢えたんだね。


 



刀を握り続けた掌は、記憶の中のものより強付いているけれど。
握る手の力加減や、伝わってくる温もりは、あの日の記憶のまま。
何も、変わらない。
何も、変わっていない。


瞼の裏側が、どうしようもなく熱くなる。
涙が溢れそうになるのを、ゴミが入ったと誤魔化しなら手で拭えば、大丈夫か——と気遣う声が降ってきた。

「もう、取れた」

顔を上げて微笑みを返せば、目の前の琥珀の瞳も柔らかく細まる。
その穏やかな表情に、もう一つ別の記憶が重なった。





「俺も、お袋が死んだ後からしばらくの間の記憶は、随分と曖昧だよ」


あれはもう、いつのことだったでしょう。
お兄ちゃんを浄化してくれたお礼を伝えながら、ぽつぽつと事故のこと、当日の記憶が不鮮明なことをと打ち明けた、その日。
同じだな……と。
小さく笑ったその心の中で、あなたは一体何を考え、思っていたのでしょう。

優しい優しい、黒崎君。
その優しさを至極当たり前のことと思っているが故に、常人より桁外れて気遣いのできることに、まるで自覚のないあなた。

お前が戸を叩いたのは、親父の医院で。
その時隣に居たのは、俺だ——と。
私に一切の真実を告げず、名乗ることもしなかったのは、きっと…きっと、私のためだったのでしょう?
あなたを憶えていなかったことに、私が自責の念を持たぬよう。
私があなたに対して、決して負い目など持たぬよう。
胸の内に、ずっと秘め続けてくれたのでしょう?
微笑みの裏に、たくさんの感情と記憶とを押し込めながら……。








「……本当に、大丈夫か?」
「あ、うん! ちょっと、緊張してるだけだよ」

慌てて首を横にする私の目の前、黒崎君の頬がほんの僅かに朱に染まる。
今日は、デート。
お付き合いをし直すことになって、初めての。
きっと緊張してるのは、黒崎君も同じだね。

「んじゃ、行きますか」
「うん!」

引いてくれる手を少し強く握り返せば、一瞬驚いたように目を見開いて。
くしゃり……と、子供のように笑う黒崎君。
そんなふうに気を許しきった表情を向けてくれることが嬉しくて、私も自然に口元が綻んでいく。








ねぇ、黒崎君。
「秘するが花」と言うけれど。
あなたがその道を選んだのなら、私もまた黙しましょう。
思い出したことも、あなたと気づいたことも。
すべて胸の内に、秘しましょう。

その、代わり。
繋いだこの手を、私から離すことは決してしないと誓いましょう。
傍にいると、誓いましょう。
たとえこの先の未来に、どんなことが起ころうとも。

きっと……。












手を繋いで側に居た云々は私の捏造ですが、血塗れのお兄さんを背負って尋ねてきた女の子を、一心さんが治療している間、ひとりきりで待たせておける一護さんではなかったと思うので……。
姫自体もお兄さんの血に塗れている姿は、どうしたって過去の自分を思い出さずには居られなかったと思うし、ただ黙って隣に座って、励ますように手を握ってあげたりしてたんじゃないかと。
あくまで、そうあって欲しい私の気持ちが見せる映像ですがね。
カテゴリ: 小話

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