02/02の日記

21:20
愛妻の日(1月31日)絡みの小ネタ
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朝起きて1階へと降りて行くと、ちょうど母さんが玄関に飾ってある花瓶の水を、取り替えているところだった。
花瓶に活けられているのは、パステルピンクの花弁を持つチューリップ。2日前の愛妻の日に、父さんが母さんにプレゼントしたものだ。

誕生日やその他の記念日などのプレゼントには、毎回眉間に深く皺を寄せながら頭を悩ませている父さんだけど、愛妻の日については、毎年この花のこの色と決めているらしい。
確かに淡いピンクは母さんの持つ穏やかで優しいイメージそのままだ。
加えてスッと伸びた緑色の茎や、鋭利なシルエットの葉もまた、その濃い色味と共に母さんの芯の強さや、正義感の強さを彷彿させる。

父さんがこの品種に拘るのも、わかる気がするな…などと考えたところで、僕を振り仰いだ母さんと目が合った。
おはよう…と綺麗なソプラノの声が玄関に響き、僕に向けられた色素の薄い瞳が柔らかく細まる。
その笑顔は、身内の贔屓目を抜きにしても素直に綺麗だなぁと思うし、春の日の陽だまりや、若葉の香りを含んだそよ風のような雰囲気も、人として純粋に憧れる部分だ。

ただ、良くも悪くも、本人には人目を惹く自覚が全く無いようで。
そこがまた周囲の人たちから好感を持たれる要素でもあり、父さんの過保護っぷりに拍車がかかる所以でもあるのだろう。

「……なぁに? 人の顔をマジマジと」

僕が挨拶も返さずに顔を見ていたものだから、流石の母さんも訝しく思ったのだろう。
軽く眉根を寄せて、首を傾げた…その時、いささか乱暴にリビングのドアが開く音がして、「やべ、乗り遅れる」と呟きながら父さんが慌てた様子で姿を現した。

「行ってらっしゃい、気をつけてね」

靴を履く父さんの背中に、母さんが優しく声をかける。
ああ…と頷きながら立ち上がった父さんは、振り返りながら腕を伸ばすと、そっと母さんの頭を引き寄せた。

「行ってきます」

何事もなかったように出て行く、父さんの後ろ姿と。
閉まりかけのドアと僕とを交互に見ながら、顔を赤くしてワタワタする母さんの姿とに、思わず苦笑をこぼす。
階段途中にいた僕の姿は、父さんの視界には全く入っていなかったようだ。

「死神代行としては、超一流の凄腕なのにねぇ…」

ぼやくように呟いた僕に、母さんが困り顔で微笑んだ。











カテゴリ: 小話

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