世界が終焉となる時に
□猫を被ったあとの人生は面倒くさい
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「甘い……美味しい…」
「だろー?銀さん特製みるく粥!これ食って早く元気になれ」
夜9時。
すっかり静かになってしまった万事屋。
新八は姉のいる実家に帰り、神楽はもう眠りについていた。
「それ食ったらまた寝ろよ」
「すみません……こんな時間に…」
だんだん体調の回復していった夢音が8時半過ぎにお腹を鳴らしたのを聞いたのか、銀時はお粥を作った。
ほっこりとした温かい味に夢音は自然と笑みがこぼれる。
「あ………」
お粥を食べ終わった頃、何か思い出したように突然声を上げる夢音。
何事かと首を傾げれば、『今宵月は出ていますか?』と意味深な発言をした。
「出てるよ。満月だ」
その言葉に夢音は考え込み、そして呟く。
「私の姿……お見せします」
それだけ呟き、まだ怠い足を引きずりながら窓のある場所まで向かう。
そして窓を遮る障子を開けると、月明かりが部屋に差し込んだ。
「!!」
それはそれは幻想的な姿だった。
夢音の真っ黒な髪はゆっくりと銀色に変わり、赤い瞳は爛々と燃えるように光っている。
銀時はそんな姿に息を呑んだ。
「普段…私達は感情が高ぶった時にしか姿を変えないのですが……満月の夜だけは月明かりに照らされるだけで…この姿になるんです」
儚げに紡ぐ言葉に、銀時は何も言わずに耳を傾ける。
「何故私達は……幕府の実験台などになったのでしょうか…」
涙は流れていない。
しかし銀時には泣いているように見えた。
心が……痛いほど叫んでいるように見える。
「銀時さん達には…感謝してもしたりません。助けて下さってありがとうございます」
頭を下げる夢音に銀時は適当に返事をし、いつもの調子に戻る。
そして夢音も障子を閉め、元の姿に戻る。
「お前の生い立ちがどうであれ、怖がったり追い出す奴はここにはいねぇから…とにかく安心して身体を休めろ」
その言葉に微笑んだ夢音。
それを見届けた後、銀時は部屋から静かに出た。
「……………っ…」
力が抜けたようにその場に座り込む銀時。
「あいつ………マジでヤベーかも…」
あの赤い瞳に見つめられた瞬間、身体が凍ったように動かなかった。
そして心奪われるような感覚になった。
長く見つめていたら……きっと魅入られてしまう。
「鬼族………か…」
小さく呟いた銀時は何か考え込むように目を閉じた。