2nd

□人間愛理
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「こんばんは。市瀬さん、寺島くん」






深夜1時半。
臨也は小野坂組の市瀬真人、寺島剛に会っていた。
人気がなく、臨也がよく来る屋上で話は始まった。






「調べたんだけどね、なんだかややこしい事件だよ。たくさんの人間が交錯していて……実に面白い。俺としてはね」






挑発的な臨也の言葉に眉一つ動くことのない二人。






「旦那。増谷の奴らは見付かったんですかね?」

「まだですよ。今優秀なハッカーが調べてます。……そんなことより、面白い情報を手にしましてねぇ」






そう言いながらポケットから取り出した紙は名無が調べてきた事件の記事だった。






「これ。小野坂組と増谷会の抗争真っ只中に起きた事件です。増谷会の用心棒、野木達悠の妹さんが殺された事件ですよ」

「!」






臨也の見せた記事に顔色を変えたのは、市瀬の少し後ろにいる寺島だ。
じっとその記事を見ながら、何か考えているような表情を浮かべる。






「臨也さん。その事件が今回の事件になんの関係があるんですか?」





寺島の言葉に臨也は屋上のフェンスを乗り越え、両手を大きく広げながら答える。






「もしさ…もしだよ?これは仮定の話として聞いてほしいんだけど……」






風を感じながら臨也は満月の空を見上げる。






「俺が増谷千秋なら、自分達の邪魔をする小野坂組を確実に潰して消したい」






事件の記事にナイフを突き立て、破り捨てる臨也。
紙は風に舞い新宿の空を飛んでいく。






「そこで狙うのは用心棒の手塚晋次だよ。彼は粟楠会でもそれなりに知られている用心棒らしいし……被害を抑えたいなら初っ端に手塚を殺したほうが楽だ。だから俺ならまず奴を狙う」






ポケットにナイフをしまい、柵越しから二人の方へ向き直る。






「でも俺には手塚を殺す力はない。用心棒として構えているんなら…それなりに強そうだしねぇ。だから…用心棒には用心棒を。増谷千秋は野木達悠に手塚を殺すよう仕向けた」

「仕向けた……という言い方が気になるのですが…」






寺島の言葉に「よく気付きました!」と高笑いをする臨也。






「そう!仕向けたのさ!昔殺された妹の敵を討つために……とか適当なことを言ったんじゃないか!?」

「「――――!」」






さすがに平常心でいられなかったのか、二人は息を呑みながら次の言葉を待つ。






「そんな顔なさらなくても……これはあくまで仮定の話であり、俺の推測ですよ」






ニコッといつもの営業用愛想笑いを浮かべた臨也。
市瀬と寺島はお互いの顔を見ながら口を開く。






「…………手塚さんが野木由香と面識があるのは確かです。僕も前に聞いたことありますし」

「あぁ。それは聞いたことあるな。でもどういう関係だったのかは……俺も知らない」






二人の会話に耳を傾けながら臨也は口元を吊り上げ、それを隠すように背を向ける。
これだから人間はおもしろい。
そう思いながら。






「とにかく。今回の事件に関して、俺は小野坂組の皆さんの味方です。増谷会は商売がやりずらいでるからねぇ」







それだけ言い残し、臨也は二人の間を抜けて屋上を後にする。







「手塚さん……あんたは一体何を…」







市瀬の言葉に寺島は黙り込んだ。
見えない出口を探す一行に、新宿という街は容赦無く休日を謳歌する―――



 
 

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