2nd

□心思前進
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「いってらっしゃい」

「いってきます。家から出る用がある時は必ず誰か一緒にだよ」

「うん。分かってる」






今回の事件において、名無が直接的に関わる事を禁じている臨也はひとり増谷の場所に向かう事にした。

名無は駄々をこねたりせず、黙ってその指示に従う。






「それじゃあいってきます」






玄関のドアノブに手を掛けた臨也を名無は呼び掛けて止めた。
振り向いた臨也の顔を真っ直ぐ見つめ、ぽつりぽつりと呟き始める。






「私……少しは前に進めてるのかな……?」

「………」






自嘲的な笑みを浮かべながら、名無は静かに続ける。






「弱い自分が嫌で、変えたくて……お兄ちゃんみたいに強くなりたかった。だからこの事件を通じて変わろうとした………でも…私変われてるのかな……」






名無の言葉に臨也は黙り込んだ。
言葉が見つからなかったからじゃない。
本人が気付いていないことに驚いたからだ。






「今も思うの。私はいつもみたいに仕事をこなしただけ。それが自分になんの力を与えたのかって。私は現実世界では無力だから……パソコン内でしか動けないから……だから…………」

「名無」






話を続けようとする名無の言葉を遮った臨也。
名無は小さく肩を揺らし、俯いた。






「俺はね、名無は強くなってると思うよ。この仕事に関わりたいって言い出した時からね」

「でもっ………」





反論の言葉を人差し指で制す臨也。






「変わりたいって……強くなりたいって……そう思った時点で、既に前に進めてるんじゃないかなぁ?」






言葉の意味を飲み込めていないのか、名無は眉を寄せながら臨也を見つめる。






「人間にとって大きな進歩は変わりたいと願うその気持ちだと俺は思うよ。……そう願った時点で人は前へ進めてるし、強くもなってる。だから名無は強いよ。俺なんかよりずっとね」

「お兄ちゃん……」






ウルウルと大きな瞳を揺らす名無に微笑み、優しく頭を撫でた。






「大丈夫。名無は俺の妹なんだから」






俺の妹。
その言葉に名無はやっと笑った。
安心してその表情を見つめた後、臨也は額にキスを落とす。






「出掛けるときは連絡ね」

「分かってる………いってらっしゃい、お兄ちゃん」

「うん。いってきます」














いつか、思い出す時が来るんだろうか。



この会話を。
この出来事を。







君の笑顔をーーーー


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