はらりと落ちる花

□歯車は回り始める
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「総司。斎藤。ちょっと来い」





それは冬のある日。
決められた就寝時間は等に過ぎているというのに、非番の僕らは土方さんの部屋に呼び出された。





「『羅刹』達が脱走した」





土方さんのその言葉に、僕も一くんも顔色を変えた。





「副長、数は?」

「二人だ。これが厄介なことに…血に狂ったまま出てったらしい」

「へぇ。それはまずいですね。早く捕まえないと」





羅刹…というのは、蘭方医である雪村綱道という男が作っていた薬によってなる者達のことだ。

その薬の名を……変落水。
人間に劇的な変化をもたらす代わりに、血に飢えた獣に成り下がってしまう薬だ。





「面倒だなぁ…僕今日は非番だったのに」

「文句を言うな。行くぞ」

「はいはい。まったく…一くんは真面目なんだから」





立ち上がった土方さんと一くんに続き、僕も浅葱色の羽織りを纏い、夜の町へ出ていく。





「滅多にないよねぇ。組長と副長が見回りなんて」

「総司。お前はもう少し緊張感を持ちやがれ!」

「はーい」





土方さんは短気だからすぐ怒る。
そう一くんに言うと「今のは総司が悪い」と嗜まれた。
真面目な二人の間に挟まれると、どうもやりずらい。





「チッ。どこに行きやがった」

「副長。ここは三手に別れて捜索するのが得策かと」

「そうだな。おい総司。お前はあっちを見て来い!…斎藤は……………」





土方さんが指示を出している最中、突然奇怪な笑い声と金属音が耳に届いた。

一番最初に走り出したのは一くん。
手柄を取られるのは堪らないと僕も数秒遅れて走り出した。





「きゃぁあぁぁぁっ!!」





走っている最中、聞こえてきたのはまだ幼さの残る女の子の声。
歩調をさらに速めると、すでに一くんが脱走した羅刹を片付けていた。





「一くん…こんな時に限って仕事早いよね」

「俺は務めを果たすべく動いたまでだ」





一くんらしい返事の後、誰かがうずくまっている姿が見えた。
どうやら羅刹に襲われた善良な市民らしい。





「動くなよ。背を向ければ……斬る」





そんな市民に容赦なく、土方さんは刀をその子に向けた。
確かにこの子は見てはいけないものを見た。
始末するのは当然だろう。





「あれ?殺らないんですか?」





僕の予想と反し、土方さんはその子を殺さなかった。
刀を鞘に納め、ため息をつく。





「その子、見ちゃったんですよ?」

「余計なこと言うんじゃねぇよ。始末せざる終えなくなるだろうが」





どうやら土方さんはこの『男装した女の子』を屯所に連れ帰るらしい。

どうせ面倒なことになるんだからさっさと殺しちゃえばいいのに。

そんな事を思いながら大人しく命令に従い、気絶してしまった女の子を抱き上げた。





これが雪村千鶴との出会い。
そして……歯車が周りだした瞬間。

 
 

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