はらりと落ちる花

□雪と桜
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今日は底冷えするような寒さ。
町の人達も肩を小さく丸めながら歩いていく。





「総司くん」

「……!美咲さん……っ…」





こんな寒い日に何してるんだよ!
急いで駆け寄ると、ニコニコと笑顔で呉服屋の前で待っていた。





「何してるのさ!今日は寒いのにっ…また体調崩したらどうする気!?」

「ふふっ……総司くんったら。大丈夫よ。石田散薬があるもの」





………まったく。
この人も石田散薬の信者なのか…。
ため息をつくと美咲さんはふわりと僕の頬を両手で包んだ。





「まぁ、すっごく冷たい。屯所に戻ったら暖かいお茶を出してもらいましょうね」

「……調子狂っちゃうなぁ」





頭を乱暴に掻きながら、屯所から持ってきた黒の羽織りを掛けてあげる。





「……雪まで降ってきたわね」





そう言われ空を見上げると、ひらひらと雪が降ってきた。
地面に落ちては消え、美咲さんは差傘を広げる。





「ほら。入らないと風邪引いちゃうわよ」

「僕が持つよ」





差傘を取り上げると美咲さんにかからないように引き寄せる。





「屯所に着物を直しに行く以外で訪ねるのは初めてね」





屯所までの道のりを歩く途中、美咲さんは何度か町の人達に声を掛けられ笑顔で応える。

美咲さんの呉服屋は仕立ての良さが売りで皆からの信頼も高い。
この辺に住む町の人ほとんどが美咲さんに着物の仕立てを頼んでいる。





「相変わらずの人気ですね」

「ふふ。ただ呉服屋さんがこの辺にないだけよ」





こんな控え目なところも僕の好きなところのひとつ。
でしゃばったりせず、威張ったりせず。
穏やか過ぎる表情を浮かべたまま誰にでも優しくするのだ。





「あら。あそこにいるの、新八さんじゃないかしら?」





屯所のある八木邸前。
雪が降っているというのに羽織り一枚着ず立っていたのは新選組二番組組長の永倉新八が立っていた。





「おっ!美咲ちゃん!よく来たな!」




大きく手を降った新八さんに手を振り返す美咲さん。
差傘から急いで出ていくと僕が掛けてあげた羽織りを新八さんの肩に掛けてあげていた。





「新八さん、風邪を引きますよ?早く中に入ってくださいな」

「お、おう。悪りぃな」





なぜか大人しく言うことを聞いてしまう新八さんは美咲さんに背中を押されて屯所の中へ入っていった。

残された僕は複雑な心境ながらも、傘を閉じて後に続いた。



 
 

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