はらりと落ちる花
□愛おしい貴女に
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池田屋から数日。
寝込んでいるという僕の情報を聞き付けた美咲さんが薬を持って屯所へ来た。
「よかった……随分顔色が良くなったわね」
穏やかに笑った美咲さんは僕を覗き込むように見つめる。
近くの薬屋から貰ったという薬を僕に差し出し、必ず飲むことと指示した。
「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ」
布団から起き上がると、美咲さんは不安そうに僕を見る。
「心配性だなぁ。そんな顔してたら幸せが逃げちゃいますよ」
そう言うと美咲さんは弱々しく笑った。
僕が血を吐いてるのを見た時、本当に死んでしまうのではないかと思ったらしい。
不安にさせてしまった事は申し訳ない。
でも……不謹慎だけど少し嬉しかったりする。
美咲さんが僕の為に泣いてくれたことが。
「そういえばどうして池田屋にいたんですか?あんな所に飛び込んでくるなんて」
どうかしてますよ。
僕の言葉に美咲は困ったような表情を浮かべ、話し出す。
「昨日は近所の方に届け物をしていたんだけど…そしたら帰る時間が遅くなってしまってね。池田屋の前まで行ったら斬り合いをしているし……遠回りして帰ろうとしたら…」
新八さんの声が聞こえた。
身の毛のよだつような内容が。
そうこぼした美咲さん。
僕と平助が怪我をしたからって一般人があんなところに来るのは勇気がいっただろう。
僕は思わず美咲さんの頬を撫でた。
「……ありがとう。でも、これからはそんな事しないでね?美咲さんにもしもの事があったら…堪えられないし」
「それは私も同じよ。総司くんに何かあったらって思うと……堪えられない」
ねぇ。
それは期待してもいいのかな?
僕のことを少しは見てくれてるって…
思ってもいいのかな?
「あまり無茶苦茶しないでね?」
「あはは。無理な相談ですよ。僕は新選組ですよ?」
「う……。じゃぁ自分の身体を大切にね?」
「はい。それならなんとか頑張ってみます」
ふわりと笑う貴女を抱きしめる権利を
僕はいつになったら許されるんだろう?
こうして触れられる位置にいるのに。
手に触れて、頬に触れて、髪を撫でて…
それが出来るのにそれ以上は出来ない。
この居心地のいい関係が…壊れてしまいそうな気がして。
「そうだ。金平糖一緒に食べません?土方さんに見つからないように」
「相変わらず甘いものが好きね。体調が良くなったら甘味所でも行きましょうか?」
「…うん!約束ですよ?」
壊れてしまうのが怖いから……
いっそ、このままの関係で。