はらりと落ちる花

□それは穏やかな記憶
1ページ/1ページ

 









ひらひらと舞い散る桜を、僕は眺めていた。





「……………」





元々武家の生まれだった僕は、両親を無くし、試衛館の近藤さんの内弟子として引き取られた。





「………つまんない」





今日は稽古をする気にもならなくて、近藤さんや井上さんの目を盗んで抜け出してきた。

この場所は人がいなくて好きだ。
一本だけ生えた桜の木には桃色の桜が咲いていて、ひらひらと花びらが落ちていく。





「そーじくーん!」

「……………」





来た。来てしまった。
この場所は誰にも教えてないのにどうしてあの人はすぐに僕を見つけるんだろう。





「見ぃつけた」





にっと悪戯っぽく笑ったその人は天音美咲。
近藤さんの知り合いとかでよく試衛館で雑務をしている。





「何しに来たのさ」

「これ。一緒に食べようと思って」





差し出されたのは僕が好きな甘味所の団子。
美咲さんはいつもこうやって何かと理由を付けて僕のところへ来る。
ニコニコ笑っている姿を見るとどうも無下には出来なくて、僕は特に避けることもしなかった。





「ここにいるとは思わなかったわ。ここね、私のお気に入りの場所なの」

「え………」





僕以外には知らないと思ってたのに。

美咲さんは桜の木を見つめながら手を伸ばす。
はらりと落ちた花びらは美咲さんの手の平の中に乗る。





「そういえば、近藤さんが探してたわよ?」

「……知ってる」





近藤さんのことだから僕の姿が見えなかったら心配して探すだろう。
そしていつも必ず………





「お。総司!こんな所にいたのか」





そう。
必ず見つけ出してくれる。





「おや?美咲くんもいたのか」





穏やかな表情の近藤さん。
僕が毎度こうして困らせているのに、近藤さんは嫌な顔ひとつしない。

そして美咲さんも……今はまだ好きとまではいかないけど…嫌いじゃない。





「それじゃぁ近藤さんも来たことだし、一緒にお団子食べましょうか」

「土方さんに内緒なら…いいですよ」

「ふふ…。じゃぁ今日は内緒ね」





これは穏やかな日々の記憶。

 
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ