二
□冬になるとバラードが聴きたくなるのは何故なんだろう?
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何もない一日のある日。
銀時は机に伏せながら先日のことを思い出していた。
『好きでさァ………あんたの事が』
夢音を抱きしめるながら言った沖田くんの本気。
うらやましかった………そんなふうに素直な思いを口にできることが…。
「夢音ちゃーん?そこ目だよ、目」
「…………え…?」
冷たいお茶を口ではなく目に流している夢音。
こないだから様子がおかしいのは見ていれば分かる。
考えているのはきっと沖田くんの事だろう。
「す、すみません………」
あたふたとしながら零してしまったお茶を片付ける夢音。
いつもの椅子に腰掛けていた俺は立ち上がり、手伝う。
「何かあったか?」
分かっているのに聞いてしまう俺は汚い奴だと思う。
夢音が素直に相談してくるって……分かってるからだ。
「………先日…総悟くんと出掛けた時……一人の女として好きだと……告白されました……」
嬉しそうでもなく、悲しそうでもない。
表すなら困っている表情だった。
「もちろん私も………総悟くんのことは…好きです………でも…それが総悟くんと同じ好きかと聞かれると……分からないんです……」
優し過ぎるこいつは、きっと相手を傷付けたくないと考えているに違いない。
だから言葉が出てこないんだろう。
「沖田くんはなんて?……答えが欲しいって言ってたか?」
まるで小さな子供をあやすように…俺は夢音の頭を撫でる。
「今はまだ…いらないって……振り向かせる……努力をするからって……」
「ならいつも通りに接してやれ。それが優しさってもんだ。男ってのァ意外とデリケートだからな」
そう言うと夢音はふわりと笑った。
『相談してよかった』と。
「いちごミルク……入れますね……」
「あぁ。頼んだ」
俺は弱い。
沖田くんみたいに……思いを伝える勇気はない。
ただ傍にいて、今の関係が続けばそれでいいと思ってる。
壊れるぐらいなら俺が我慢すればいい。
そう思うことは……慣れているから。
「ホント……浅ましいな………」
夢音の横顔を見るたび……俺は何度もそう思うんだろう。
自分の気持ちを………偽って………