二
□夢オチだと気付いた瞬間に悲しくなるのが3次元の現実
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『そーちゃん……どうしたの?』
「姉上……」
あぁ……これは夢だ。
夢だと分かってはいるが、現実に戻ってしまえばどうしよもない事に打ちひしがれてしまう。
だから意識に蓋をしたまま、姉上の隣に腰を降ろした。
『元気がないわね……大丈夫?』
「………大丈夫……でさァ…」
そんな嘘を、姉上は簡単に見透かしてしまう。
俺の頭に手を起き、優しく撫でる。
『嘘……そーちゃん今すごく悲しい顔をしてるもの』
悲しい……顔……か。
俺は何に悲しがってるんだろう。
何がこんなに苦しいんだろう。
胸を刺すような痛みがするたび、浮かぶのは夢音の笑顔。
「……姉上。………俺、好きな人が出来たんでさァ」
俺がぽつりぽつりと話し始めると、姉上は黙ったまま頷いてくれる。
「惚れたきっかけとか、なんて惹かれたかなんて…分からねェ。気づいたら好きでした……」
だから…一目惚れだったのかもしれない。
旦那がスクーターの後ろに夢音を連れていた時。
初めて出会った……あの日から。
「その人、天人なんでさァ……鬼族っていう…絶滅したと言われている………天人」
山崎の調査で夢音が鬼族だという情報を掴んですぐ、俺は何気なく鬼族の事を調べた。
大量の書物や資料が置いてある場所で見つけたのは『夜兎と鬼族の違い』という、誰が書いたかも分からない埃を被った書物だった。
書いてある内容には驚いたが、別段気にはしなかった。
例え戦闘種族と言われていても天然の夢音が危害を加えるとは思っていないから。
でも今回、幕府から来た書状で夢音が鬼族最後の生き残りであり、実験台にされていたということが分かった。
「俺ァ……どうしたらいいんでさァ………真選組も護りてェ…夢音の事も護りてェ……どうしたら…っ……」
『そーちゃん』
弱気になる俺を、凛とした声が制止する。
いつも穏やかに笑っている姉上は真剣な表情に変わっていた。
『答えはもう出ているじゃない』
「………?」
俺の胸にそっと手を当て、いつもみたいに笑う。
『真選組も夢音ちゃんっていう子も護りたい。………それがそーちゃんの答えなんでしょう?』
そう言うと姉上は立ち上がり、俺に背を向けた。
『護りたいものがあるなら護ればいいの。立ち止まってはダメ。……自分の信じた道を進むのよ』
「姉…上」
いつも俺の背中を押してくれた。
姉上は最後に振り向き、微笑みながら言った。
『大丈夫。だって……そーちゃんは私の自慢の弟だもの』
ここで、俺の意識は再び現実へ戻された。
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