折原家の愛しい妹
□喧嘩人形
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「静雄さんっ」
「うわっ!名無……その抱き着く癖やめろって…」
「えへへ…ごめんなさい」
放課後。
街に降り立ったひとりの少女。
平和島静雄が仕事の拠点とする池袋で二人は待ち合わせをしていた。
「なんだか……デート見たいです」
「っ!……お前なぁ…!」
顔を赤く染める静雄。
これがあの池袋の喧嘩人形だと誰が思うだろうか。
いつものバーテン服に身を包んでいるとはいえ、その表情は柔らかい。
取り立ての仕事をしている時には見られない表情だ。
「静雄さんといると…なんでこんな安心するんだろ…」
「……ったく…//」
ふいっと顔を逸らす静雄の顔を覗き込む名無。
赤くなった顔を隠すように静雄は名無の頭をクシャッと撫でた。
「ほら、行くぞ。何買いに行くんだ?」
「あ、はい!えっと…洋服と……あとシャンプーが切れてたからそれも買わなきゃいけないし……あ。お兄ちゃんの服も買わなきゃ」
お兄ちゃん。
その単語に静雄は不服そうな表情を浮かべる。
「ノミ蟲の服ぅ?あいつはいつも同じ真っ黒いの着てるからいいだろ」
静雄の言葉に名無は「そこが問題なんです」と漏らす。
「お兄ちゃんったらいつも同じ服しか着ないんです!だから波江さんに『黒いカラス』なんて言われちゃって……まぁ私もそれには笑ってしまったんですけど……」
波江とは情報屋を勤める臨也の助手である矢霧波江という女だ。
静雄は知らない人物の名前に小さく首を傾げる。
「だからお兄ちゃんの『黒いカラス』のイメージを払拭するために新しい服をプレゼントしようというスペシャルな企画なんです!」
ぐっと拳を握りながらそう言う名無に静雄は溜息をついた。
名無の買い物に付き合うのに文句はないが、あの男の物を買うのに付き合わなければならないのは少々不服だ。
どうせなら趣味の悪い最悪のものを選んでやると心に誓った静雄であった。