折原家の愛しい妹

□仕事依頼
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人間は誰でも、隠しておきたい秘密がある。

例えば自分がネットで立ち上げたグループの創始者であったり、居場所欲しさに作ったグループのせいで大切な人が傷付いたり、人を愛せない体質であったり……。

隠し事は人それぞれだが、それでも『秘密』ということは皆同様。
それは折原名無も例外ではなかった。




「I Want to your have information. Yer!coming soon.……Don't worry.I take responsibility upon」
(あなたの持ってる情報を頂戴?そう!すぐに。……心配しないで。責任は私が負うわ)




パソコンの前で細い指を滑らかに動かす。
キーボードからはリズミカルな音が聞こえ、少女の表情はとつも楽しげだった。





「お兄ちゃん。その組織の情報が暗号化されてるデータの入口見つけたよ」

「さすがは名無。じゃぁパパッとよろしくね」





臨也はソファでくつろぎながら、依頼主から出されたお茶を啜る。
名無はパキパキっと指を鳴らすと、すごいスピードでパソコンのキーボードを弾き出した。





「あのお嬢さんは一体………」





スーツを着た男はあんぐりと口を開けながら美しい容姿の名無を見つめる。

臨也はフッと笑いながら同じように名無を見た。





「あの子はね、パソコンでいろんな情報世界に入ることが出来るんですよ」





つまりは、ハッカー。
コンピューターに習熟し,創造的なソフトウエアの開発などに打ち込む人。
しかしそれは職業として存在するわけだから、『ハッカー』という言い方は正確ではない。

正しく言うならば、クラッカーだ。
通信回路を通って他のコンピューターに侵入し,データを盗んだり破壊したりするマニア。





「すごく出来た子でねぇ……自慢の妹ですよ」





その口元は怪しく歪んでおり、依頼主が思わず息を飲んだ。
よく似た兄妹は同じような表情をしており、心に潜む邪悪な何かを浮き出させていた。





「ふふっ………」





パソコンの前で名無が笑う。





「単純な二重トラップ。こんなのに騙される人いるのかな?」





パチンっとキーボードを叩く。
するとパソコンの画面には、組織の機密データが映し出される。
クラックに成功したらしく、名無はバックアップを取る。





「よし♪お兄ちゃん終わったよー」





データのバックアップをパソコンから抜き取る。
それを依頼主に渡すと、名無は臨也の胸に飛び込んだ。





「偉い偉い。じゃぁ報酬を頂けますか?」





臨也の目の前に、茶封筒が置かれる。
中身を確かめ、それを名無に渡す。





「これは名無のだよ。好きに使うといい」

「え…いいの?」





渡された封筒をじっと見つめる名無。




「今日俺はついて来ただけだからね」





臨也の言葉に名無はふわりと笑う。





「じゃぁ今日はこれでご飯を食べに行こうよ!ねっ?」

「名無がそう言うなら…何か美味しいものを食べに行こうか」

「うんっ」





手を繋ぎ、事務所を仲良く出る二人。
依頼主は溜息を尽きながら、恐ろしいと言わんばかりの表情で折原兄妹の笑顔を想像した。

全ての人間を見下したような、
まるで自分が神になったかのような、
あの不気味な笑顔を…………。




 
 

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