折原家の愛しい妹

□偶然出会
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それは偶然か。必然か。
少女は覚えていない。

帝人と出会ったのは中学三年の時だった。
田舎に行ってみたいという名無の願いを叶えるため、父と母が都会から名無を連れ出した。

田畑が広がる場所に幼い少女は瞳を輝かせる。
見たことのない景色を見るのは田舎の子が都会を見て驚くのと同じような感情なのであろう。

少女は父と母に繋がれた手を離し、駆け出してしまった。
目的もなく走る。走る。走る。走る―。

気付いた時、少女の回りに知り合いはいなかった。





「………ここ…どこ?」





少女は自分がいつも持ち歩くノートパソコンを広げた。
電源を入れ、現在地を確認する。





「………地図見ても分かんないや…」





ガクッと肩を落とした。
しかし不思議と、少女に不安の気持ちは生まれなかった。

理由は簡単だ。
何故なら少女には…………。





「あ。もしもし、お兄ちゃん?」

「名無!?また迷子になったの!?」




年上の兄がとてもしっかりしているからだ。
妹のことになると心配性になり、必死になってしまう兄。
少女はそんな兄が大好きだった。





「うん。また案内してくれる?」

「当たり前だよ。じゃぁ今から指示する通りに動いてね。あ、寄り道禁止だから」

「えー………」

「えーじゃない」





離れた場所から少女を指示する兄は東京にいた。
今の世の中は便利でGPS機能を使い、両親と子を会わすことなど容易に出来る。





「まったくさぁ…パソコンの技術は抜群に凄いのに……なんでそんなに抜けてるのさ」

「方向音痴で好奇心旺盛と言ってよ。ついつい興奮しちゃって……」





にゃははと笑う少女に兄は苦笑いを零した。
この少女は自分のペースを簡単に狂わしてしまう。





「まぁいいや。あ、そこ右ね。あとは真っ直ぐ行ったら商店街に出れるから。そこにいるよ」

「わーい♪お兄ちゃんありがとう」





タタッと電話越しから少女が走り出す音が聞こえた。
兄は心配そうな声色で少女に話し掛ける。





「走ると危な…………」

「きゃっ!!」





………………。
言わんこっちゃない。
兄は頭を抱えた。


 
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