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□絶体絶命
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絶体絶命……というのは、まさに今の事を言うのだろう。
「はぁっ……はぁっ……!!」
とある土曜日、名無は池袋で仕事をしていると聞いた兄を探していた。
兄の臨也から外にあまり出るなと言われていたが、昼ご飯の材料が冷蔵庫になかった為、臨也を探すついでに一緒に食べようと思ったのだ。
「なんでっ……あんなにガラが悪いの!?」
そう。
名無はカラーギャングに追われていた。
原因は些細なこと。
カラーギャングの肩に軽く当たってしまい目を付けられた。
それだけなのだ。
「はぁっ……はぁっ」
臨也に助けを求めたいところだが、かばんの中に入った携帯を走りながら出すのは不可能だった。
ただひたすら走る。
路地を避けて大通りを走っていればきっと誰かが助けてくれる。
そんな淡い期待を抱いたのが間違えだったのだ。
周りは関わりたくないというように、追われている名無を避けていく。
「うぁっ………!!」
足がもつれ、地面に倒れる。
元々運動が得意じゃない名無にとっての限界がきた…ということだろう。
「……とうとう追い付いたぜ」
カラーギャングに囲まれ、名無は怯えるように体を震わす。
『黄色いものを身につけた』彼らは厭らしい目付きで名無を見つめている。
「慰謝料は体でいいって言ってんだろ?とっとと払えよ」
ニヤニヤと笑いながらギャングのひとりが手を伸ばす。
終わった……そう覚悟して目を閉じた時だった。
「おい。通行の邪魔だ」
「!?」
その聞き覚えある声に名無は思わず涙が溢れた。
「……ガキ同士の争いなら別の場所でやりやが……名無……?」
カラーギャングに囲まれた中心に見つけたひとりの少女に声を発した人物、平和島静雄は一気に怒りをカラーギャングに向けた。
「てめぇら。男が寄ってたかって女追い詰めてるたぁ…どういうことだ、あ゙ぁ?」
池袋最強、平和島静雄の登場にカラーギャングは怯んだ。
「静雄さんっ………助けて…っ」
プツンと静雄の中で何かが切れた。
隣にいた上司、トムさんは「あーあ」と頭を抱える。
「てめぇら……こいつが何やったってんだ?死ぬ覚悟…出来てんだろぉなぁ……?」
ギロリと睨んだ先、鉄パイプを持ったギャングが静雄に向かって突進した。
もう自棄(やけ)になっているんだろう。
叫び声が情けない。
ガコンッ
鉄パイプは静雄の頭に直撃。
額からは当然のように血が溢れた。
「静雄さんっ…!」
悲鳴に近い声を上げた名無。
目の前に広がる赤に過去の情景が思い出される。
「……てめぇ…今頭狙ったな?」
しかし、静雄は何食わぬ顔で立っていた。
足元がふらつくこともなく、倒れるわけでもない。
ただじっとギャングを睨みながら立っているのだ。
「頭は場合によっちゃぁ死ぬよな?つまりてめぇは俺を殺すつもりだったってことだよな?ならてめぇも………
死ぬ覚悟は出来てるよなぁ?」
そこから先、名無はあまり覚えていない。
ただ入り混じる感動と恐怖の感情に戸惑っていた。
平和島静雄は……以前よりも強くなっている気がした。