□誘拐予想
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事件はすでに起きようとしていた。
それは俺が期待していた事件と…平行して。





「こいつのせいで……俺らの仕事はパァになった…!!」





憎しみを買ってしまうこともある職業…というのは重々承知していた。
こんなクソったれな仕事を続けていられるのは、俺の性格の問題だろう。

卑怯で姑息。
こんなふうに生まれたのは偶然かもしれないが、わりかし自分にピッタリだと思っている。





「折原臨也………必ず復讐してやる」





俺が予想していない事件などない。
全ては駒のように…忠実に動く。
シズちゃんなどの例外は除いて。



この事件も………全て俺の手の中に。



















♀♂








「波江さん。今日はもう帰っていいよ」

「………………どういう風の吹き回しかしら?」





書類が山積みになっているにも関わらず、臨也はニコリと微笑んで帰れと言った。





「俺だってたまにはひとりになりたい時だってあるよ。有給休暇ってことにしてあげるからさ」





そんな言葉に、波江は珍しいものを見るような目で臨也を見つめた。

しかし上司命令なら仕方ないと立ち上がる。
どうせ長居をしたいわけでもないから丁度いいとも思った。





「じゃぁ後はこれを棚に入れるだけだから。次の日に来て片付いてなかったら怒るわよ」

「はは。分かったよ」





臨也は波江に背を向けたまま、新宿の街を大きな窓から見下ろしていた。
そろそろ名無が帰ってくる時間。

臨也は迎えに行かないとき、こうして名無がマンションに入るところを見ている。





「……………」





波江はその後ろ姿をため息をつきながら見つめたあと、黙って部屋を出た。

波江がいても元々静かな部屋だが、ひとりでいるとより静かだ。
聞こえるのは臨也のゆったりとした呼吸音だけ。





「また監視に来てるなぁ……」





マンションの近くに不自然に止まった車。
中にいる人物に心当たりはないが、何度も臨也の部屋を望遠鏡で覗いていた。





「人のことあんまり言えた義理じゃないけどさぁ……趣味が悪いよねぇ」





携帯を取り出し、名無にメールを送る。
予定は変更。
臨也は小さく呟いた。





「楽しいなぁ!きっと彼らは最終手段を使ってくるんだろうなぁ…」





ニヤリと微笑んだ先には、こてっと首を傾げるむっくがいた。





「君はどう思う?彼らは『誘拐』っていう犯罪を犯すと思う?」





つぶらな瞳をしたチワワを抱き上げ、臨也は愉快そうに口を吊り上げている。
むっくはわんっと吠えると臨也の頬をぺろっと舐めた。





「大丈夫だよ。俺が彼女を傷付けると思う?……これは必然なんだ。俺が行動してもしなくても事件は起きる。だったら先手に回らないとねぇ」





臨也の言葉の意味を犬であるむっくには理解出来ないだろう。
しかし元気よく吠えると臨也は満足げな表情をし、床に降ろした。





「君も楽しみだろ?」





新しく買った黒い首輪を巻いてやる。
むっくは心なしか嬉しそうに鳴いた。





 
 

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