□危機迫時
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名無が家から出て数時間ほど経った。気付いたら池袋に降り立っていた名無はあてもなく街を歩く。





「……………」





いつも4人で歩く道を、傘を差しながら歩く。










『名無ーっ!今日も可愛いなぁっ!』
『名無ちゃん。おはようございます』
『そろそろ行かないと遅刻しちゃうよ?名無さん』










この道は…こんなに広かっただろうか?
こんなにも閑散としていただろうか?

いつも道いっぱいに広がり、ぎゅうぎゅうと押し合いながら歩いてた。

でも今は……隣に誰もいない。





「…………何も…出来ないの…?」





今日、きっと全てが動き出すはず。
なのに私は何も出来ない。





「私は……ネット世界でしか…」





役に立たない。
その言葉は掠れた声で、雨の音に掻き消された。

今回の事件に関しては現実世界で起きていること。
ネット内から情報を引き出すことしか出来ない名無に出来ることはなかった。





「あれ……?」





ふと前を見ると、そこには見慣れたバーテン姿の男、静雄とドレッドヘアーの男、トムさんがいた。
ふたりは上司と部下の関係で、取り立ての仕事をこなしているのだろう。





「………!」





路地に入ったふたりから数メートル離れた先、黄色のものを身につけた若者たちが目に入った。

そいつらが見つめている先が平和島静雄だと気付いた名無は急いでトムさんと静雄のところへ駆け出す。





「トムさん!静雄さん!」

「ん?名無ちゃん…だっけか?」





先に振り向いたのは静雄の上司にあたるトムさん。





「お前何してんだ?こんなとこで」





静雄は路地に駆け込んで来た名無に首を傾げる。





「静雄さん、トムさん!回収はあとにして下さいっ!早く路地から出て下さい!」

「はぁ?どうしたんだよ」





服の袖を掴み、大通りに連れ出そうとする。
しかし、時既に遅しというやつだった。


 
 

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