□日常奪悔
1ページ/1ページ

 







「なるほど。つまり企業が君の弱点である名無ちゃんを誘拐して君を揺さぶることを予想し、行動しようとしてた」

「そういうこと。まぁ結果的に企業は潰れるし、抗争の邪魔が入らないからよかったんだけど……名無が怪我をした。そこに負い目は感じてるよ」





輸血し終わった名無の顔色はだいぶ良くなっており、臨也は安心したように微笑み眠る名無にキスを落とした。





「正直なところさ……不安なんだよ。この子は俺よりも『死』というものに敏感だ。人より死に対する恐怖が強い」





過去に名無が体験したこと。
目の前で大切な友人が死んだあの日から、名無の日常は消えてしまった。





「そんな中、俺はこの子を非日常に引き込んでしまった。…負い目を感じてるどころじゃない。この俺が……折原臨也が、後悔してるんだ」





だから守ろう。そう誓った。





「つまり…抗争の邪魔になるから…というのは建前ってわけだね」





新羅は穏やかな表情をしていた。

卑怯で、姑息で、最低な折原臨也でも人を愛することができる。
相手は確かに妹だが、それでも臨也が『感情を持った人間』ということが分かった。
それだけで新羅にとって十分な収穫だ。





「あまり危険なところに行かせたくはない。今回の抗争は尚更だ。血生臭過ぎる。いつも共にいる友人が皆巻き込まれてるんだ」

「矛盾しているよね。火種を掠め取って一カ所に集めたのは他でもない君じゃないか。なのに妹はそれに関わるな…なんて無理な話なんじゃないのかい?」





新羅の言葉はもっともだ。
苦しんでいる友人がいたら自分がどんな状況に置かれていてもすぐに手を差し出してしまうような子。
関わるなというほうが難しい話だ。





「俺には俺の目的がある。今回の抗争だって今後大きく街に影響するんだ。ダラーズ、黄巾賊、罪歌がたまたま名無のつるんでいる仲間だった……ただそれだけの事じゃないか」





その言葉に新羅は深い溜息をついた。
臨也にとって聞き慣れたその呼吸に笑顔で応える。





「歪んでるんだよ、俺は。自分で承知してるさ。……だからって直すつもりはないし、もちろん名無を傷付けるつもりもない。まぁ…後者のほうは絶対可能かって言われたら自信はないけど…でも…………
















この子は……俺が守るよ」





その言葉にいつもの偽りはない。
新羅は直感的にそう思えた。

日常を非日常に変えた臨也は名無の頬を優しく撫で呟いた。





愛してる………と。





 
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ