□愛憎人々
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もし……唯が死なずに済んだなら。幾度となくそう思っていた。





「名無ちゃん…」

「…友達…ですか?……嬉しいです//」





控え目で、おしとやかで、私とは正反対の唯。
そんな彼女が大好きだった。















♀♂






「………唯」




葬式会場。
横たわる唯に小さく呟いたが、返事が返ってくることはない。





「ごめんね。………ごめん…ね」





溢れる涙を堪えられず、唯の頬を撫でながら顔を歪める。
そんな名無を遠くから見つめる者がひとりいた。





「……………」





兄、折原臨也だった。
何を考えているか、その表情からは読み取れない。
しかし泣き崩れる名無の背中をじっと見つめている。





「…絶望の淵とはまさにこのことだよね。俺は今……君に何をしてあげられる?」





歪んだ愛しか知らない俺に…何が出来るんだろう?
臨也は答えの出ないまま会場をあとにした。





「………私…生きてるのも辛いよ。生き地獄って……こういうのを言うのかな?」





応えるはずのない声を求め、
映るはずのない瞳を求める。

聞こえるはずのない呼吸を求め、
見れるはずのない笑顔を求める。





人の死とはこんなにも儚いものなのだろうか。





「………唯さん…いじめにあってたみたいよ」

「それで……自殺を…可哀相だわ」





聞こえてきた声に思わず耳を疑った。
唯が……いじめにあっていた。

なんでもっと早く気付いてあげられなかったんだろう。
そう思っても、もう遅い。
今の私には…何も出来ない。





「……っ………嫌い。……こんな世界っ……壊れちゃえばいいっ…!」





名無が憎しみに溢れた表情をしていたことを、葬式会場を訪れた人は知らない。

いじめた奴らが憎い。
そんなことばかり起きるこの世界が憎い。
そして唯の異変に気付けなかった自分が……何よりも憎い。





この憎しみが消えることはこの先ない。
そしてこれの数ヶ月後、私は兄から世界を壊す方法を教えてもらった。





ハッキング。ネット犯罪だ。





やらないつもりだった。
犯罪を犯して唯が喜ぶだろうか。
そう思っていたから。

しかし……火種などいくらでも転がっている。
私はその火種がどうしても許せなかった。
だから……消してやろう。
壊してやろう……そう思った。





衝動的にやってしまったとはいえ、これはれっきとした犯罪。
後悔の念に捕われている時、兄は私に言った。





『それでもいい』と。





その一言だけで、私は救われた気がした。
それと同時に、私にはもうこの人しかいないと思った。

犯罪を犯し、自らの感情すら捨てていた自分を認めてくれるのは…兄しかいないのだと。





「お兄ちゃん…っ……」





まるで洗脳されたかのように、私の頭には兄の存在が深く刻み込まれた。





お兄ちゃん お兄ちゃん お兄ちゃん お兄ちゃん―――





まるで機械のように。
世界の中心は兄。
私のすべてをこの人に捧げたって構わない。




………そう思っていたはずだった。



 
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