□紡言悲揺
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病院に駆け込み、受付で紀田正臣の名前を問う。

すると急患で運ばれてきた高校生が正臣らしく、病室の番号を聞きすぐに向かった。





「………っはぁ…はぁ…」





病院まで全力で走ってきた名無。
肩の傷は開いてしまい、包帯は赤くにじんでいた。





「正臣……?」





病室の扉をゆっくり開けると、そこに正臣はいた。
傷だらけの身体でベットに横たわっており、その姿は痛々しい。





「名無さん…!?」





正臣の傍にいたのは帝人だった。
帝人は名無の肩を見て目を丸くし、自分の座っていた椅子に名無を座らせた。





「なんでこんな傷……!?」

「正臣……正臣は?…大丈夫なの?」





自分のことよりその場で眠っている正臣の心配をする。
名無の質問に、帝人は安心させるように微笑んだ。





「大丈夫だよ。しばらくしたら目が覚めるから」





帝人の言葉にほっと胸を撫で下ろす。
そして眠る正臣と心配そうな表情の帝人に呟いた。





「………ごめんね」





なんのことか分からず、帝人は首を傾げる。
名無は俯いたまま話を続けた。





「私ね……知ってたの。こんな事態になることね…ずっと前から知ってたの」





紡がれていく言葉に、帝人は黙ったまま名無の言葉を聞く。





「私がもっと早く……こうなる前に教えてあげればよかったんだよ……。そしたら…正臣だって……こんな怪我せずにっ…」





溢れる涙は正臣の手に落ちる。
帝人はそんな名無の肩に手を置いた。




「名無さんは悪くないよ。みんな…同じように苦しんでて、同じように大切なものを抱えてた。…だから言えなかった。それは僕も、正臣も、園原さんも…そして名無さんも」





誰かが悪いわけじゃない。
帝人はゆったりとした口調でそう言った。





「…そうだぜ……名無だけのせいじゃねーよ」

「!?」

「正臣!」





目を覚ました正臣は弱々しく微笑んだ。
そんな姿に名無は涙を流しながら顔を歪める。





「あーあ……美人が台なしだぞー…?」

「ごめん……ね……ごめんな…さい」





名無の涙を指で拭う。
そして優しく手を握ると、正臣は言葉を続けた。





「分かってるから……もう何も言うな。お前は兄を裏切れない。でも俺達のことも見捨てられなかった。……だからあの時、俺と臨也さんが話している声が聞こえて家に居づらくなったんだろ?」





図星を突かれて名無は黙り込む。
確かにあの場にいるのは苦しかった。

兄にも嫌われたくない。
正臣たちを危険な目に合わせたくもない。
その思いから二人と顔が合わせずらくなったのだ。





「だからもういいんだ。…誰もお前を責めたりしない」

「だって……だって…」

「そんなに泣くなよ…」





困ったように笑う正臣に帝人も笑う。





「名無さん。僕たちは今回、すれ違っちゃったけど……それでも僕らは互いの安否だけを考えてた。その事実はどんなことがあっても変わらないよ」





帝人や正臣の言葉に耳を傾け、名無は涙を流すことしか出来なかった。
言いたいことはたくさんあるのに、感謝の言葉すら出てこない。

名無は正臣の手を握りながら、何も言わずに泣き続けた。





 
 

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