短編とリクエスト

□心操笑言
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心を惑わせる為には、多彩な言葉と多彩な態度。
様々なものを組み合わせて人を操る。

実に気分がいいことだ。
自分が神になった気さえする。


俺の取り巻きにいる女たちはそんな奴ばかり。
居場所を失った彼女らが俺という名の神を崇拝し、崇めている。

彼女らは俺が言えばなんでもやる。
例えどんなに酷なことでも。






「無無。久しぶり」






そんな取り巻きの女の中、一際に儚く、弱々しそうな少女がひとり。
名を名無無無。
しとやかな雰囲気の中にある絶対的な影。
無無は両親が他界してから、心を闇の中に閉じこめてしまった………………あるひとりの天才少女。






「お久しぶり……です……」






消極的な彼女はとにかく人に怯える。
人見知りが激しいせいか『取り巻き同士は仲良くね』なんて言ってもコミュニケーションが取れない。






「まぁ座りなよ。コーヒーと紅茶。どっちがいい?」






デスクから立ち、キッチンに向かうと無無は小さな声で紅茶と答えた。

これはいつものことだ。
紅茶にミルク、角砂糖は3つ。
甘い甘いミルクティは彼女のお気に入り。






「わざわざ呼び出して悪かったねぇ。少し君に用があってね」

「いえ……気にしていません。臨也さん」






紅茶を差し出すと外で身体が冷えたのか、カップを手で包み込みホッと微笑む。

熱い紅茶を一口流し込んだところで俺は本題に入る。






「実はねぇ君にやってほしいことがあるんだよ」






俺はそういって一枚の写真を見せた。






「この人は…………?」






写真を手に取り、首を傾げる無無。
俺はさらに数枚の写真を起き、事情を説明する。






「彼の名前は竜ヶ峰帝人くん。ダラーズの創立者さん」






『ダラーズ…』と小さな声で繰り返した無無。






「ダラーズは……私も入っています……」

「あぁ。知ってるよ。君にやってほしいことはこの帝人くんを観察すること。ただそれだけ」






俺の言葉に無無は少し考えるように黙り込み、やがて小さく呟く。







「観察して……どうするんですか…?」

「今後必要な材料を集めるだけだよ。ダラーズにたくさんの人を集めて巻き込む。それだけのことさ」






おれがそう言うと、無無は納得したように頷く。






「臨也さんが望むなら……やります……」






頷いた無無は再び紅茶に視線を戻し、その味を味わう。



そういえば、先ほど言ったように彼女はあることに関して天才だ。
そのあることと言うのが……






「臨也さん………こないだ頼まれた黄巾賊の件……調べられましたよ」






無無は人の心の隙間に入るのが天才的に上手い。
闇も光も、無無は見極めその懐に入りこむ。

相手を惑わし、情報を盗み出すのだ。






「ありがとう。君は本当に役に立つねぇ………」






ただし………






「お礼は何が欲しい?なんでもいいよ」

「お礼は…………いつものがいいです」






頬を赤く染めた無無。
俺はいつものように無無の顎を持ち上げ、深々とキスを落とす。







「ん…………ぁ……」






彼女の心の隙間に入り込んだのは俺。
彼女は唯一俺の隙間には入ってこれず、俺は彼女の隙間に入った。



その事実が心地いい。
彼女は俺のモノ。
俺のお気に入り。






「これからもさ、俺の傍にいて…役に立ってよ。愛してあげるからさ」

「…………はい……臨也さん…」






瞳はよどみ切った、綺麗で美しい黒。
無無の瞳に映ったのは俺だけ。






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