短編とリクエスト
□歪愛贈言
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可愛い妹の誕生日。
これが土日だったらよかったのに…なんと今日は平日。
無無は学校だし、きっと友人にお祝いをされているだろう。
「あーあ…ホント予定外。狂っちゃったよ」
「あら。あなたにも寂しいという感情があったのね」
愛しい妹の誕生日だというのに俺は波江さんとふたりきり。
何が嬉しくてこんなふうになったんだろう。
「ねぇ波江さん。弟くんが誕生日の時はいつも何してるの?」
きっと波江さんのことだ。
すごいサプライズをしているに違いない。
そう思って聞いたのに帰ってきたのは意外な返事だった。
「別に。特に何もしないわよ」
「え?」
波江さんは気にも留めてないように書類を書き進めていく。
「そういうの、誠二があまり好きじゃないの。私は盛大に祝ってあげたいんだけど…誠二が嫌がることはしないわ」
当てにならない……。
そんな目で波江さんを見ると「悪かったわね、役に立たなくて」と一掃された。
「何か欲しいとか言ってなかったわけ?」
「新しいパソコン。それは用意してあるよ」
「…………仕事熱心ね、彼女」
無無が新しいパソコンが欲しいと言っていたからそれは既に用意してある。
回りくどいことは嫌いだから「欲しい物はないか」と単刀直入に聞いたのだ。
「仕方ない。普通にお祝いすることにするよ」
「はいはい。じゃぁ私はこれで。あとは片付けておいて」
「ご苦労様」
ひらひらと手を振るとすごく嫌そうな顔をしながら出ていった波江さん。
俺もケーキを買いに行こうと立ち上がると、ふとあるものが目に入った。
「ん?」
それはピンク色のリボンが付いた小さな箱だった。
リボンに付いているメッセージカードには『お誕生日おめでとう』の文字。
「なぁんだ。優しいところあるじゃん、波江さん♪」
持った重さからして、中身は時計だろう。
波江さんのことだからきっと高価なものなんだろうなぁ。
「ただいまー」
「えっ!?」
突然聞こえた声に思わず時計を見た。
時刻はまだ午後2時。
帰ってくるには早過ぎる。
「お兄ちゃん?ただいま」
ひょこっとリビングに顔を出した無無の腕の中はプレゼントや手紙でいっぱいだった。
予想はしていたが、やはり腹が立つ。
「帰りが随分早いね。まさかサボり?」
「もー!昨日言ったじゃん。今日は早帰りだって」
あれ?そうだっけ?
考えるそぶりをすると無無はムッと頬を膨らませる。
あ…可愛い。
「それより見てー♪いっぱい貰ったんだよ」
そう言いながらプレゼントを見せびらかす。
そんなにアピールしなくても見えるよ。
「よかったねぇ。ちなみに俺からもあるんだけど…」
「え!ホントに!?」
期待してなかったー、なんて笑う無無には少々お仕置きをしなければ。
「あげてもいいんだけど……そのプレゼントを全部捨てるならいいよ」
我ながら最低だと思う。
だが所詮は独占欲。
これには勝てないのだ。
まぁOKすると思ってないけd……
「いいよ」
「は?」
そう言ってごみ袋を取り出し、貰ったもの全てを放り込んだ。
「はい。だからちょーだい?」
ふわりと笑った姿は目眩がするぐらい綺麗で。
「……歪んでるよ」
「聞き飽きたセリフだよ」
ぎゅっと首に抱き着かれたら、振りほどくことが出来ない。
俺なんかよりよっぽど質が悪い。
「誕生日おめでとう。生まれてきてくれて……ありがとう」
「私のお兄ちゃんとして生まれてきてくれてありがとう」
柄にもないことを言うのは、きっと彼女が愛おしいから。
(わぁ!ピンクのパソコンだ!可愛い〜//)
(前欲しいって言ってただろ?)
(……そうだっけ?)
(物忘れ激しいよ。4日前に言ってたじゃないか)