短編とリクエスト

□雨日出会
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「最悪だね」





取引先との仕事を終え、外に出るとまさに豪雨という名が相応しいほど雨が降っていた。

走って帰るには距離があるし、少しでも出たら多分ベトベトになる。





「波江さんに迎えに………あ。今日は弟くんのとこに行くって言ってたっけ」





しばらく経てば止むか……。
そう思いながら雨宿りをしていると、目の前をたくさんの人が通っていることに気付く。

人間観察が趣味な俺にとっては絶好の場所だ。





「!」





皆が急ぎ足で俺の前を通り過ぎる中、ベンチに座りぼーっと空を見上げる女がいた。

傘を差すこともせず、俺のように雨宿りする様子もない。





「ねぇ!風邪引くよー?」





気になって声をかけてみても反応はなかった。

俺に気付いてないだけかもしれない。
そう思って近付いてみた。





「ねぇ。風邪引くってば。何してるの?」





女はゆっくりと首を動かし、ようやく俺を視界に入れた。

女はとても優美な顔立ちをしており、雨で濡れた長い髪が白い肌に張り付いている。





「………貴方こそ…風邪引くよ…?」





その一言だけ言うと、女はまた空を見上げる。





「何を見てるの?」

「……晴れないかなって」





………もしや、ちょっとイタい子か?
そう思いながら見つめていると、女はコテッと首を傾げる。





「でも…もういいの。今日はいいことあったし」





突然立ち上がった女はにこりと笑って俺に背を向ける。





「またね。折原臨也さん」

「!」





降り続ける雨の中、女は軽い足取りで去っていく。

これが彼女、請負屋の名無無無との出会いだった。






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