短編とリクエスト
□駅貴女待
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新宿駅。
改札口前で君を待つのは、もう日常のこと。
「臨也さん!」
ぱぁっと顔を明るくし、俺の胸の中に飛び込んでくる少女。
少女の年齢は18歳。
今年受験や就職などを控えたごく普通の女子高生。
「今日は遅かったんだね」
「ごめんなさい。先生に進路の心配をされまして……。大丈夫と何度も言っているのですが…」
少女の名前は名無無無。
今は訳あって俺の家に住んでいる。
「いつも迎えに来て頂いて申し訳ないです」
「いいんだよ。仕事ついでだから」
毎日仕事ついでに新宿駅にいるとは思えません!
ぷぅっと頬を膨らませた無無に俺はキスをする。
そして手を手に絡めると、無無は顔を赤くした。
「進路提出、まだしてないんだろ?どうする気なんだい?」
「…………決められないんです…」
突然悲しげな表情になる無無。
俺は何も言わずに次の言葉を待った。
「両親は私に大学に行ってほしいみたいなんですけど……別に私は…」
まぁ確かに。
無無は高校内でいつも首席だ。
不得意な科目がない。
そんな出来のいい娘になら、大学にでもいって良い所へ就職…なんていう道筋を立ててあげたいだろう。
「大学は大学でもお父さんとお母さんが住んでいる近くの京都の大学に行けと言うのです」
「つまりそれってさ、東京からいなくなるってことだよねぇ?」
俺の言葉にコクリと頷く無無。
あーあ…そんな泣きそうな顔をしなくても。
「どうして行きたくないの?君は両親と凄く仲がいいじゃないか。行きたくないなんて逆らうとは思わなかったよ」
俺といる時だって父親と母親の話をする。
尊敬しているからと笑う無無の顔が嫌いじゃなかった。
「…………お迎えが…なくなっちゃうじゃないですか…」
「…は?」
ぼそっと呟いた無無は瞳に涙を溜めながら俺を真っ直ぐ見つめる。
「そうしたら……っ…!毎日臨也さんと……会えなくなるじゃないですかっ!」
あぁ……なるほど。
俺としたことが気付かなかった。
この子を『拾った』時、約束してたことがあるんだ。
「………離れたくない……離れたく……ないんです…っ…」
駅の出口前、無無は涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら俺にすがるよう抱き着いた。
優しく包み込んで、穏やかな口調で口にする。
「うん。………離れなくていいよ…」
♀♂
『君はこれから来良学園に通うんだろう?』
『はい。そうです…』
『なら君は俺の家から通う。どうせ住むところないんだろう?』
『ありますけど…少し遠いんです』
『なら俺の家に住む。これ決定事項だから。助けてあげたお礼だと思って従ってね』
『分かりました』
『それから………』
『?』
『これから毎日。俺は君を駅まで迎えに行ってあげる』
『お仕事をなさってるんじゃ…?』
『差し支えないねぇ。これも決定。というか約束。俺がいないときに勝手に帰ったらお仕置きするから』
『……はい。よろしくお願いします、臨也さん』
毎日君を迎えに行くのが楽しいから。
沈んだ顔、泣きそうな顔の時、俺の顔を見た瞬間笑顔に変わる。
それが大好きだった。
だから……
「大丈夫。俺がなんとかするよ」
情報屋の名にかけて探すよ。
君と離れない方法を。