短編とリクエスト
□人間全愛
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苦しいぐらいに愛おしく、
苦しいぐらいに憎らしい。
それが俺の愛して止まない人間。
好きで好きで好きで仕方ない。
「さて…と」
池袋にあるビルの屋上。
ネオン街を見下ろしながら笑う。
「そろそろ来るころかなぁ」
望遠鏡を覗き込むとある女の姿が写った。
それは今俺が一番興味を持っている人間。
頼まれた汚い仕事を請け負う請負屋、名無無無。
多分今も仕事最中だろう。
ひとりの男をつかず離れず付けている。
「仕事熱心なのはいいけど…何もこんな日に働かなくても」
今日は俗にいうバレンタイン。
まさか血のバレンタインってホントにあるとは…。
「さぁて……邪魔しに行くとしようか」
池袋の街に降り立つと、そこはいつもと変わらない風景。
今日の仕事内容はある企業に頼まれた情報を確かめに行くこと。
それが今無無が付けている男なのだ。
「無無ちゃーん♪」
「!?」
ばっと振り向いた無無は俺を見た瞬間嫌な顔をした。
そして再び歩き出し男を追う。
「無視なんてひどいなぁ。俺もあの男に用事があるんだよ」
「私の邪魔しないで」
無無の隣を歩いていると、「目立つから止めて」と早歩きを始める。
「あの男、俺の情報が正しいなら拳銃所持してるよ」
「知ってる。でも拳銃はどうでもいいの。依頼はあの男を殺すことだから」
胸には隠しナイフをしのばしており、路地に入った男を追い詰める体勢になる。
「まぁ俺は確かめるだけだし。依頼主にはどうとでも言えるしね」
「そう。なら邪魔しないでよねっ……と!」
突然走り出した無無は軽やかに壁を蹴りながら男の目の前へ。
「なっ……!誰だ!?」
「名乗るほどのものではありません。それに…名乗っても覚えられないですよ」
「どういう意……っ…」
艶やかに、優美に……血と女が舞う。
これだ。
彼女に興味を持った理由はまさにこれ。
苦しまず、あっという間に殺してしまう。
男は殺されたことにすら気付いてないだろう。
無無はナイフに付いた血を遠心力で払うとまた胸に戻した。
「近くで見たのは初めてだ。綺麗に殺るんだねぇ」
「………うるさいよ。それより……はい」
血の付いた手を拭くと拳銃を俺に差し出した。
「私の仕事はここまでだから。あとはよろしくね」
「…………」
無無は人を殺した後にも関わらずふわりと花のように笑う。
これも好きなところだ。
割り切れているところは俺とそっくりだと思う。
「ねぇ」
「はい?」
欲しい。
ただ純粋にそう思う。
人間全てを愛してる俺が、個人に固執するなんて。
「二人で一緒に……手を組まない?」
まずは仕事から。
警戒心の強い彼女にはゆっくりと近付こう。
いつか全てを俺のものに出来るように…。
俺がそう言うと彼女はまたふわりと笑った。
end...