短編とリクエスト

□聖夜独切
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聖夜独切










聖なる夜、クリスマス。
確か……海外では家族で過ごすイベントだ。
それなのに、何をどう間違えて日本では『恋人と過ごすイベント』になってしまったのか。





「ごめんね。仕事なんだぁ…」

「……………」





そもそも何故、俺はこんな事態になってしまったのか。


今年、俺には彼女が出来た。
イベントでひとりじゃないぜーっ!なんて浮かれる暇もなく、





春休み、
「ごめんね。仕事なの」





ゴールデンウイーク、
「ごめんね。また仕事なの」





夏休み、
「ごめんね?また………」





そして今宵、クリスマス。
「臨也………ごめんね」





なんでだぁあぁっ!!
と思わずキャラを忘れて叫びたくもなるというものだ。

俺の彼女無無はごく普通のフリーター。
ただもう20代なのにも関わらず、
恋愛をしたことがない。
付き合ったことがない。
恋人と仕事の両立が出来ない!
という極端なタイプ。

これが俺の悩みなのである。





「はぁ……」





外はクリスマスカラーに包まれ、街はカップルだらけ。
何が悲しくてこんな寂しい想いをしなければいけないのか。





「惚れた弱みとはいえ…この放置プレイは酷いよねぇ…」





長期休みに限って会えないのはもう日常茶飯事。
彼女と付き合う時に覚悟はしていたが…やはり寂しいものは仕方ない。




ひとり、池袋の街を歩いているとツリーの下でケーキ売りをしているのが見えた。
無無が甘いもの好きだなぁとぼんやり考えていると、ふとある違和感に気付く。





「……ん?」





ケーキ売りをしている女装サンタの中、一際笑顔を振り撒く女の子がいた。





「メリークリスマス。あ!僕!これ、飴さんあげる」

「お姉ちゃんありがとうっ!」

「いーえ♪よかったらママとケーキも見ていってね」





そこにいるのは見覚えのある人物。
間違えるはずがない、彼女の無無がいた。





「この飴さんはね、特別な力があるの」

「特別な力?」

「そう!大切な人とか…会いたい人に巡り会うことが出来る不思議な飴さんなんだよ?」

「じゃぁ僕サンタさんに会える!?」

「もちろんだよ!かっこいい僕のところにはきっとサンタさんが来てくれるよ」





子供と話している無無はとても楽しそうだった。
ミニスカサンタの格好は気に食わないが、こっちまで穏やかな気持ちになる…そんな笑顔。





「その飴。俺にも頂戴」

「え………?」





驚いて目を丸くする無無に笑いかける。
すると頬を赤くし、スカート伸ばそうと下に引っ張る。





「え…と……//」

「ほら。早く頂戴?」





恥ずかしそうに飴を差し出す無無の手を引き、抱きしめる。





「い、い//臨也っ!?!?」

「会えるの諦めてたから……嬉しいよ」





今年もひとりぼっちかと思った。
そう口にすると無無は申し訳なさそうに俺を見つめる。





「あ、あのね……今年休みを返上してまで働き詰めだったのは……その…旅行に行きたくて……//」

「旅行?」





なんのことかと首を傾げれば、無無は相変わらず頬を赤らめ俯きながら話す。





「お正月に……臨也と海外旅行に行きたかったの……ほら、臨也前にイタリア行きたいって言ってたから…//」





どうしても叶えたくて……。

そう言う無無をどうしよもなく愛でたくなった俺はわしゃわしゃと頭を撫で、胸に引き寄せる。
小さく細い身体はポスンと音を立て、俺の胸に納まった。





「旅費ぐらい出してあげるのに…」

「それじゃダメだよ。だって…臨也とは対等でいたいから…//」





あぁもう。
可愛すぎるよ。

ふわりと笑う無無から飴を貰い、口に含む。
そしてサンタクロースの格好をした無無を担ぎ、オーナーと思われる人にウインクをする。





「無無、今日はもう貰っていくよ!」

「う…ぇ??い、臨也!?」





今日はクリスマスなんだから…一緒に過ごしたっていいだろ?

耳元で甘く囁けば顔を真っ赤にして了承する。
最初からこの手を使えばよかったのかと過去の自分を悔いながら俺は無無と新宿へ帰っていった。










(それにしてもスカート短くない?)

(え?そうかな…//?)

(そーだよ。まぁいいか。帰ったら『遊べる』し)

(遊ぶ?)

(そう。大人の遊び……だよ?)



end...
 
 

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