α

□死因
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言葉は淀みなく、本当に自分の口から出たものかと思うほどに冷たかった。



「ティキもあたしも、きっと人間に焦がれてるのよ」

まるで負け惜しみみたいだと、後になって気付く。

こんな時でさえ優しい金色の双眸が私に向いて、あたしの言葉の意味を問うた。

「人は廃墟だとか老婆だとか壊れていくものに美を感じるもので、儚くて脆いものに惹かれるんですって」

だからあたしは、普通の軟弱ですぐに壊れてしまう人間に憧れる。

そういう人間と比べたら、あたしはあまりにも図太くて醜い。

「お前も充分すぎるくらいイイ女だと思うぜ?」

「白々しいわ。そういう台詞は本命にだけ言ってあげて頂戴」

そうよ、あたしはあの子が羨ましい。

あたしはあの子を、ティキに愛されるあの子を、憎んで恨んで羨んで、この身が焼けるほど嫉んでる。

「そうだな」

ねぇ、だからそんな顔で幸せそうに笑わないで。

こうやってあたしと話をしている間でさえあの子のことを想ってるのね。

話題を振ったのはあたしだけれど、あの子を殺めたくて仕方がなくなるの。

ああ、なんて、

なんて愚かしい……



ずっとずっと見ていたのに

ずっと前から欲しかったのに

いとも簡単に、奪って

そうして何も知らないように

女の一番きれいな顔で

彼の隣で笑ってみせる



その目を抉って彼の姿など見えないように

その喉を潰して彼の名など紡げないように

その肌を焼いて彼の熱など感じないように

その耳を削いで彼の睦言なんて消してあげる



ああだけどそうしたところで分かってる

彼の心はあたしに向かない

結局いちばん惨めなのは、いつだってあたしだ



だからあたしはここでひたすら

胸が焼け尽くし爛れ朽ちて

この感情が終わるのを待とう






焼死

(ただ1つ、無惨に転がる)
(あたしの恋の、焼死体)




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