α
□死因
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いつかの約束は、虚しく消えてしまった。
だから、せめて破片だけでも抱き締めて。
戦争なんて遊びだと思っていた。
自分達が傷付くことなど無いと。
だから時々お前が見せる不安気な表情にも笑って応えていた。
毎回のように、大丈夫だと軽々しく紡いだ。
嘘を吐いた。自覚さえ無いまま。
何も大丈夫じゃない。今なら痛いほど解る。
何一つ護れやしない。ただ一人、それも一番大切な人間ですら。
小さな体は美しいまま液体の中に浮かんでいる。
傷口は縫い合わせど消えず、好きだと言っていた黒い服で隠した。
その顔には皺なんて一つも無い。
彼女の時間は完全に止まってしまった。
本人の望みとは裏腹だ。
彼女は悲しむだろうか。それとも喜んでくれるだろうか。
幼い彼女との約束に縋っているのは、きっと自分の方だ。
「あたしが大人になって、もっとずっと綺麗になったら、ティキはあたしと付き合ってくれる?」
口先だけは一人前の女みたいに生意気な少女がおかしくて、思わず笑った。
「お前は今でも充分に綺麗だよ」
くしゃくしゃと髪を撫でれば、拗ねたように頬を膨らませて「からかわないでよ」と言う。
「あたしの夢なの。ティキと一緒に年を取って、おばあちゃんになって、しわしわの顔で笑いながら死ぬの。ティキにずっと側にいてもらうの」
はにかむように、彼女は無邪気に笑った。
自分に懐いている少女を疎ましく思ったことなど一度も無い。
きっとそれは未来でも変わらないだろうと思った。
(実際は未来なんて、少ししか用意されていなかったけれど)
「随分と平凡な夢だな。わかった、叶えてやるよ。俺とお前が年取って死ぬまでお前を幸せにする。
勿論、お前が良いオンナになったらだけどな」
こつんと額を弾いた。痛がるのか喜ぶのか迷いながら少女は変な顔をした。
けれど酷く、幸せそうだった。
(今でも目蓋に焼き付いて、頭から離れないほど)
「×××××」
小さく名前を呼ぶ。答えは無い。
「ずっと側にいてやる…」
彼女が望んだように。
本当はただ、側にいたいだけだけれど。
夭死
(冷たいガラス越しの彼女の額に唇を落とした)
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