α

□死因
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御座なりのキスであしらった

純潔でもないし、純白でもない

光沢のあるルージュで笑う女

なのに、彼は酷く不機嫌だった





「どうしてそんな顔をするの」

「お前は俺のモノだろ」


ゆるゆると、見えない糸があたしに絡み付く

苛立ちに歪んだ金色が、痛いくらい真っすぐにあたしを射抜く


「見てるなんて思わなかった」

「見てなければ良い訳じゃない」


いつもより少しだけ乱暴に、長い指が頬を撫でて顎を持ち上げて

けれどあたしの唇を指でなぞるだけで、彼との距離は縮まらない



「あたしは貴方の物よ」

触れられても不快じゃないのは貴方くらいだわ

「じゃあ、どうして他の男とキスなんか、」

だってあたしはそういう生き方しか知らないもの



「キスくらい誰とでも出来るの」

彼が小さく息を呑む

自分の言動、或いは彼の所作

それが、徐々に首を締めていく


「求められれば誰だって拒まない。そんなあたしでも愛してる?」

赤い唇が弧を描いて、あたしはきっと、底意地悪く笑ってる



いっそ、早く、完全に、汚いあたしを嫌って



「…痛々しいな」

細いヒールに頼り意地だけで立つあたしは今にも崩れ落ちそうで

腰に回された腕に、いとも簡単に抱き寄せられる


「怯えてないで、早く俺だけを見ろよ」

耳元に低い声を乗せた空気が触れて過ぎた

厭になるくらい核心を掠める言葉に追い詰められる様で


「いやよ、そんなことしないわ」

抵抗なんて口先だけ 脳がぐらぐらと揺さ振られる

それでも、貴方だけ、なんて、そんな退路を断つようなこと…





逃れようと、囚われまいと藻掻いて、けれど振り切ることも出来ず

糸は食い込んで、あたしはゆっくり、確実に、貴方に殺されていく




窒息死

(言葉で、目で、仕草で、あたしをゆるやかに縛って)
(溢れだしそうな衝動が喉に詰まって、あたしが息を止める迄)
(貴方はきっと離しては呉れない)



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