短編小説

□短々編集
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音も立たないようなしなやかな雨。


着々と世界を濡らしてゆく。


この季節にこの雨。


見えないほどの細い雫は綺麗で


何故か、好き。




「ティキ〜…出掛けようってばぁ」


「雨、降ってんだろ」


「だからこそ、なのぉ」


「なんで雨の日に出掛けなきゃなんねぇんだよ」


「好きなのぉ、雨」


「ああ、はいはい、じゃあ1人でいってらっしゃい」


「1人じゃあつまんないんだってばぁ…」




…ティキの馬〜鹿。


そう言って拗ねてみたら、


仕方ないなっていうように溜め息をついて


あたしに手を差し伸べたティキ。


ティキのこういうとこ、大好き。




「分かりました。行きましょ、お嬢様」


「ホントっ!?ありがとぉ、ティキ」




ぎゅって抱き付いたら、優しく頭を撫でてくれて。


やっぱり好きだなぁ、なんて、何回目かもわからない実感。




「濡れちまうだろ、これじゃ」


「いいのぉ!なんかラブラブっぽいでしょぉ?」


「風邪ひいても知らねぇからな」


「そうだねぇ。ティキみたいに馬鹿じゃないからひいちゃうかも」


「お前なぁ…」




零れる苦笑と微笑。


寄り添った相合傘の中。


あなたのいない左側が多少濡れても寒くない。


心が満ちてるならそれがいい。




「で、どこにむかってるんだ?」


「ん〜?それは内緒っ」


「まぁお前とならどこだっていいけど」


「…?ティキ、なんか言った?聞き取れなかった」


「別に?」




雨音に会話を交えながらむかうのは


あたしがティキと初めて会った場所。


あなたは覚えてるかな?


目的地まではあと少し。




秋雨
(ほら、着いたよっ!)




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