短編小説
□短々編集
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ハロウィン/黒
10月31日
ティキの自室前。
ティキ同様、ノアの一族である少女が佇んでいた。
少女は軽くノックしてから、扉にむかって言った。
「トリック オア トリート」
そう、だって今日はハロウィンだから。
「ん〜?」
間延びした声が聞こえて、カチャリと軽い音を立ててドアが開いた。
少女はもう一度唱える。
「ティキ、゙トリック オア トリート"」
少女の黒猫っぽい服装を見て、今日はハロウィンだったことを思い出したティキ。
けれどすっかり忘れていたティキがお菓子など持っているはずもなく。
目の前にいるのは性悪少女。
悪戯なんて何されるかわからない。
無力なティキがとれた行動なんてひとつ。
少女から全力で逃げること。
「ちょっと、なんで逃げるのよ〜。…てか速いし、無駄に足長いし。いや、そこも格好良いんだけど」
まともに考えて少女が追い付けるはずがない。
他の家族たちからはもうお菓子を貰ったあとだし、大してすることもない。
仕方なく少女はティキの部屋でその部屋の主を待つことにした。
「別にティキがお菓子とか持ってるわけないって思ってたし。悪戯だって大したことするつもりなかったのになぁ。
…あれだよ、ちょっとティキのシルクハットを中から鳩さんが出る仕組みに改造しよっかなって。ほら、楽しそうじゃん、ちょっと、ね?」
少女の独り言が響く、やけに静かな室内。
必要最低限のものしか置いていないティキの部屋が虚しさを煽る。………
「お前……」
数刻後、部屋に戻ってきたティキ。
その手には彼女好みの甘いお菓子たち。
そしてその目に映ったのは自分の部屋で眠る少女。
はしゃぎ疲れ待ちくたびれ眠りについた、
まぁそんなところだろうか。
「…ホント可愛過ぎるだろ」
少女の無邪気で無防備な寝顔に微笑むティキ。
はたとそれを妖しい笑みに変えて、呟く。
「トリック オア トリート」
その後、ティキの悪戯が始まったのは言うまでもないだろうか。
それは甘い少女の失態。
そして狡い大人の情欲。
END