短編小説

□短々編集
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ハロウィン/白



10月31日


とある目的を持って、ティキに唱える。


幼い子供と同じように、ハロウィンのお決まりの台詞。


甘党でもないあたしは、お菓子なんていらないけど。


「トリック オア トリート」


してみたい悪戯があるのよ。




「は?」


見事に、間抜けた声。


26歳の大人にはハロウィンなんて無関係の行事なのかも。


それでも、言ってしまえばあたしの勝ち。


「お菓子、頂戴?」


「んなもん持ってねぇんだけど…。第一、お前そんな好きじゃないだろ、お菓子なんて」


「じゃあ悪戯する」


あたしがしてみたかった悪戯は、そう。


貴方のそのふざけたビン底メガネを取ること。


恋人にさえ見せない素顔ってどんなものなのか、知りたいじゃない。




「ちょっ、こら、お前、返せってそれ」


素早く動いたあたしの右手が悪戯を成功させた。


てか、え、何それ。


滅茶苦茶美形じゃん。


なんて見とれてしまっているうちにメガネはあたしの手からティキの顔へと戻ってしまった。


「あー…勿体ない」


「何がだよ…」


「格好良いのに」


「コレがあったって劣らねぇだろ?」


「しかも度、入ってないし」


意味ないじゃん。




「お前が好きになったのはこのオレだろ?」


言われてみれば確かにその通りだけど。


「ほら、お菓子やるから機嫌直せって」


「…持ってないって言ってたじゃん」


「さっき街で配ってたのもらったんだよ。今思い出した」


「いらない。甘いもの好きじゃないし」


はぁって、ため息。


素直じゃないあたしが悪いってことは分かってる。


けど意地を張ったら最後までってつまらないプライドもあるのよ。


「んっ…」


不意に唇に柔らかい感触。


何が起きたかは理解できる。


「…なら、お菓子の代わり」


貴方がからかうような笑みを浮かべてた。



END

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