短編小説
□短々編集
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不確定的恋愛
怠い、頭痛い、気持ち悪い、最悪だ。
確か毎月生徒会によって更新されている月間目標、今月は「気温差が激しい季節、体調に気を付けよう」だった。
そんなの言われなくたってわかってる、そんなことを思った記憶がある。
なのに、馬鹿みたいだ。
すっかり体調を崩してしまった、らしい。
教室に貼られた月間目標の字が私を嘲笑うかのように見えた。
楽しいはずのリーバー先生の授業も呪文のように理解不能。
「先生、すみません。具合悪いので保健室行ってきます」
勉強遅れたくないし保健室になんて出来ればお世話になりたくなかったけど仕方ない。
どうせこんな状態じゃ授業に集中なんて出来ないし
そんなことを呟きながら保健室へとむかった。
ああ、忘れてた。
私は本物の馬鹿かもしれない。
ここにはアイツがいる。
保健室の扉の前まで来てやっと気付いた事実に呆然とした。
「教室、帰ろう…」
数分後、やっと働きだした頭で出した結論。
我ながら賢明な判断であると思う。
……が、
その賢明な判断による行動は見事に阻止されてしまった。
保健室の扉が、開いたのだ。
「あれ、珍しいじゃん。こんなとこで何してんの?もしかして俺に会いに来たとか?」
にやついた口元。
けど別にそれは関係ない。
普通に格好良いとは思う、保健室の主:ティキ・ミック。
保健委員という立場上、知り合いだ。
大嫌いだけれど。
「何でもないです、教室帰ります、失礼しました」
くるりと身を反転させ、早歩きで立ち去る…予定だった。
けれど、私の意思に身体は従ってくれずにふらっと倒れこんでしまった。
「っおい、大丈夫か!?」
誰かに抱き留められた感触。
この場で誰かといったところで当てはまる人は1人しかいないけれど。
そのまま私はかなり不覚にも意識を手放した。
額に冷たい感触。
横になっているのがわかる。
けれど怠さに目が開けられない。
嗅覚を覆う、私がアイツを嫌う理由の香。
ゆっくりと近付いてくる足音が聞こえる。
「それ以上近寄らないで」
気持ち悪くなる、その香りは。
多分この香の中にいたら今まで以上に具合が悪くなると思ったから保健室に来たくなかった。
苦手なの、煙草。
それを吸う人も。
「ちょっとそれかなりショックなんだけど」
「知りません。大体なんで学校で堂々と煙草吸ってるんですか」
だから、ティキも嫌い。
やっとゆっくりと目を開けた。
「調子は?」
一応、一定の距離をとって尋ねてくる。
「大丈夫です」
少し眠ったのか、体調の方は少し楽になった気がする。
「そりゃよかった」
柔らかい微笑。
多分、私は煙草という要素さえなければティキが好きだといえるかもしれない。
そう、煙草さえ止めてくれれば昔されたティキからの告白も受け入れられるのに。
「先生、煙草止めれば?」
「ん?ああ、まぁそれでお前が俺のこと好きになってくれるんなら考えなくもないけどな」
「じゃあ考えて」
「けどそれよりもっと都合の良い方法を選ぶ、か」
「都合の良い方法って……」
……、不意に近付いてきたティキによって唇を塞がれた。
容赦のない深い口付け。
離れてから、笑う。
「お前に俺とともに煙草も好きになってもらう」
「無理。…てか苦かった」
「そのうち慣れるって」
「慣れないから」
「いや、絶対好きにさせてみせる」
先生は、ティキは、馬鹿みたいに自分の考えを押しつけて笑った。
けれど勝敗はもう見えてる気がする。
悔しいけれど、きっと、多分、私の完敗。
END...