短編小説
□短々編集
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放課後コーヒーカップ
「教員ってずるいよね」
白い部屋。消毒の匂いと微かな先生の香水の匂い。
そして向かい合って座る先生と私の前に置かれたコーヒーカップの中身が温かに香る。
「なんで?」
「ほら、職員室はいつもコーヒーの匂いするし、よく先生たちお菓子食べてるし。私たちには禁止するのに、ずるくない?」
「そんな校則守ってる奴いねぇだろ?」
「私守ってるよ?」
「じゃあなんで今ここでコーヒー飲んでるんだよ」
「先生がいれてくれたからじゃん」
いつの間にか保健室に居着いた私。
サボり魔の先生はいつも保健室の扉のプレートを「見回り中」にしてるから滅多に人なんて来ない。
だからくつろぐにはここが最適だったりする。
「お前のはもうコーヒーじゃなくて‘ホットミルク〜コーヒー風味砂糖多め〜’になってるけどな」
市販のカフェオレでもそれよりコーヒーの割合高いぞ、と苦笑する先生。
「苦いもの苦手だもん、コーヒーも煙草も。ブラックで飲める先生のが理解できない」
大体私はインスタント派だもん、と拗ねてみる。
そんな私に先生は意外そうに言う。
「言ってくれりゃあ紅茶もいれられたのに」
「別にいいの」
「どうして」
「少しでも先生と同じものがいいもん」
ブラックじゃ絶対何がおきたって飲めないけど。
そう言った私の髪を先生は優しく撫でた。
その、先生の少し照れたような嬉しそうな表情にときめく私も相当。
一番空の色が変化する放課後の数時間。
それに気付かないくらい相手に夢中だったりするんだ。
先生曰く、‘ホットミルク〜コーヒー風味砂糖多め〜’を飲みながら
先生を好きな自分って、悪くないなってそっと思った。