短編小説
□短々編集
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黒い瞳、無色の春
焼けるような衝動に、目眩がしそうだ
夢からはとうに覚めたのに、瞼の裏の光景は消えない
白い雪を背景に立つ、そして柔らかく笑う美しい黒石色の瞳
らしくない、本当にらしくない
彼女の感触ひとつひとつが鮮明に甦り胸を満たし締め付ける。
この腕に抱いて、ずっと
髪から、首筋から香る甘い香
すぐそこにあったのに
悲しみという感情があるなら
切なさという感覚があるなら
きっとこんな想いをいうのだろう
決して離れないという約束
君だけは俺が守ると誓った
それなのにどうして
俺の心が失くならないための、不可欠要素だった。
俺が人間として生きるために、彼女が必要だった。
俺の目の前で、体温をなくしていく身体と赤く色づいた雪
一生忘れさせてくれないだろう
忘れることなど望まない
壊してくれ、殺してくれ
色褪せたこの世界など要らない
願うは来世での再会
必ず見つけだすから
黒い瞳に良く似合うように
純粋な彼女をひきたてるように
春の風と鮮やかな花と
全てを用意するから
もう一度、俺の横で笑って。