短編小説

□短々編集
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帰りたいと願っていた。


優しい家族の元へ。


死ねば、それを叶えられると知っていた。


天国にいるみんなに会える、そしてずっと一緒にいられる。


慕っていた兄や姉、


可愛くて仕方なかった妹、


そしてあたしの片割れだった双子の弟。


みんなのそばに行ける。


親はいつの間にか無くしたけれど、みんながいてくれれば幸せだった。


それなのに、その幸せさえもよくわからない戦争が壊した。


あたしもその時死ねればまだ幸せだったのに。


どうしてまだ生きているのだろう。


助けてほしいだなんて、言った覚えは無い。


寧ろ、助けてもらっただなんて思えない。


連れ去られただけでしかない。





血が、溢れてる。


あたしの身体から。


薄暗い中で、広がっていく赤色がよく見える。


多分、止まらない。


血が出れば出ただけ、体温がなくなっていくのがわかる。


指先なんて、恐ろしいほど冷たい。


一人きり、その場所で


ああ、あたし、死ぬんだ…


…そう思ったら、途端にすごく怖くなった。






目が覚めたら、自分で分かるくらい体が震えてた。


脈が速い。呼吸が苦しい。


あんな夢を見せたのは誰だろう。


どうして死ぬのが怖いだなんて思ったのだろう。


どうして、


最期に求めたのがあの人の温もりだったのだろう…





あたしの異変に気付いて、隣に眠る人が目を覚ます。


金色の、よく澄んだ目があたしを映す。


黒い癖っ毛に指を絡めて弱く呟いた。


「ごめんなさい、みんな。ティキ、貴方が、好きです」


みんなのそばに、行けなくなった


裏切り者のあたしを、許して。


贖罪の涙を、その人はしなやかな指先でそっと拭った。





死の恐怖を知ってしまったんだ。


この人を好きだと感じてしまったんだ。


生きる意味を、見つけてしまったんだ。



みんなと同じほど、大切なものが出来たの。





裏切りの代償

(それでも、優しく笑ってくれるみんなが見えたの)



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